第6章
派遣労働者たちの声と姿を通して
見えない壁
ある女性派遣労働者(32歳)にも話を聞くことができた。彼女は大学4年生のときテレビ番組制作会社の入社試験に落ちたが、メディアの仕事に就くのをあきらめず、2001年の大学卒業後、生活のために派遣の仕事を始めた。
「就職氷河期」といわれる頃で、正社員の採用が少なく、派遣やアルバイトをせざるをえない同世代の友達も多い。
最初に登録したのは不動産業界専門の人材派遣会社で、マンションのモデルルームの受付・接客・事務をした。一緒に働く派遣労働者はみんな女性である。時給は850円で、埼玉県の地元のコンビニやファミリーレストランなどのアルバイトよりも高かった。
そこでは3年近く働いた。仕事は朝9時から夕方5時または6時まで。現場によって1人から数人が派遣された。規模の大きい所では、複数の派遣会社から人が呼ばれるので、何十人にもなった。
働ける日数は、同僚とのローテーションやマンションの売れ行きにも左右され、平均して月に15日ほどだった。月収は10万~12万円で、親元に住んでいなければ暮らすのは困難な額であった。
「派遣先では、お客さんにお茶を出すタイミングやスリッパのそろえ方、不動産会社の営業所長や営業マンに出すコーヒーの砂糖やミルクの量など、細かいところにまで神経を使いました。『気がきかない』と文句を言われたり、『気を回しすぎだ』と言われたり、大変です。気に入らないと、派遣会社に『あの子はもう来させなくていい』とクレームが入ります。
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