大村一朗のテヘランの風~第10期イラン大統領選挙リポート.1 2009/06/12
第10期イラン大統領選挙の投票日まで残すところ二日と迫り、首都テヘランは異常な熱気に包まれている。イランの選挙史上、類を見ない盛り上がりと言っても過言ではない。
加熱する、若者を中心とした市民の草の根の選挙運動、と言えば聞こえはいいが、この原稿を書いている夜中の2時を過ぎても、クラクションを鳴らし立て、奇声を発しながら住宅街を我が物顔で暴走する、選挙運動に名を借りた迷惑行為の数々には、いつからこの国はこんなに自由な国になったのかと首を傾げたくなる。
いや、それ以前に、いつからこの選挙はこれほどの盛り上がりを見せるようになったのだろう。当初は、候補者の顔ぶれから、高い投票率は望めないだろうというのが一般的な見方だった。
◆静かな選挙戦の開幕
5月5日から5日間、内務省ビルで大統領選の候補者登録が行なわれた。第10期イラン大統領に名乗りを上げたのは、475名。イランの大統領選挙では驚く数字ではない。むしろ、登録者数1000名を越えた前回、2005年の大統領選挙の半数以下であることを思えば、国民の政治に対する夢や希望がこの4年間で失われた結果であるとも受け取れる。
イランの選挙では、候補者登録を行なった全ての人が、候補者資格を与えられる訳ではない。護憲評議会という、イスラム法学者6名と法律家6名で構成される評議会によって、候補者登録を行なった人すべての申請書類が審査され、政治的、宗教的、社会的に優れ、一国の大統領にふさわしいとされる人物だけが正式な候補者としての承認される。
こうして5月20日、護憲評議会から通達を受け、内務省から発表された第10期イラン大統領選の候補者は、わずか4名。再選を目指す現職のマフムード・アフマディネジャード大統領(52)、元国会議長で国民信頼党党首のメフディー・キャッルービー師(72)、イラン・イラク戦争時代に首相を務めたミールホセイン・ムーサヴィー氏(68)、そして、革命防衛隊の元総司令官で、現在は公益評議会書記のモフセン・レザーイー氏(54)である。
前回8名で争われたのが、今回はわずか4名であること、そして、その4名ともが護憲評議会の審査を難なくパスできる人物であることから(前回、改革派の主要候補2名が審査を通過できず、支持政党による猛烈な抗議により、最高支持者が審査のやり直しを護憲評議会に命ずるという一幕があった)、国民の選挙への関心は一向に高まる気配を見せなかった。
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