090617_iran_apn_002.jpg【立ち昇る黒煙とともに銃声が響く】(撮影:筆者/テヘラン)

テヘランつぶやき日記
大村一朗のテヘランつぶやき日記~6.15デモ(2)  2009/06/15

アーザーディー広場にたどり着いたのは、夜8時過ぎ。日が落ちて間もない頃だった。
広場の北側、そこから100メートルほど離れた先で、突如、タイヤを燃やしたような真っ黒な煙が立ち昇った。それからすぐ、その方角からパンパン、と乾いた銃声が響いた。バスィージの別の施設に火が放たれたらしい、とすれ違う人たちが口々に言っている。しかし、群衆は落ち着いている。それどころか、「どれ、ちょっと見に行ってみるか」とそっちの方に向かって歩いてゆく人たちもいる。

銃声は断続的に聞こえていた。その場で立ち話をしていると、突然、黒煙の方角から、多くの人が全力疾走で逃げ帰ってきた。それを見た周囲の人たちも顔色を変えて走り出した。私も走った。くもの子を散らすように逃げ始めた群衆に向かって、「落ち着け、止まれ!」と冷静さを呼びかける人もいる。

実弾による銃撃が行なわれたのだろう。そろそろ終わりにしろという当局側のメッセージか、あるいは、一部の若者による騒乱が始まったのか。スローガンを叫び始める集団もあった。あたりはすっかり暗くなり、どの小道から治安部隊が現れ、包囲されるか知れなかった。21時前、私は広場を離れた。

人の流れに従って、夜道を北に向かって歩いた。帰り道、アーザーディー広場へ向かう何台もの救急車とすれ違う。広場の方角から来た人たちは、何人が殺されたと口々に言い、それに対して、「自分の目で見たのか?」と詰め寄る人がいる。

アーザーディー広場から少し離れた場所で、大きな病院の前を通りかかった。救急搬送口には殺気立った人だかりが出来ていた。そこには10台近い担架が待機し、次々に救急車が、アーザーディー広場からの負傷者を運び込んでいた。
狂ったように泣き叫んでいる母親の姿があった。「殺しやがった!あいつら、殺しやがった!」と泣き崩れている男性がいた。

ここは一体どこなのだろう、ガザか?バグダッドか?とやるせないため息が漏れる。ほんの三日前まで、テヘランは世界で最高の自由を謳歌する町だった。それが選挙が終わるや否や、100名以上の改革派政治家が逮捕され、抗議運動の鎮圧に実弾が使用され、学生寮がならず者たちに襲撃され、若者たちが殺された。
宗教と民主主義の両立を目指すこの国の理想はどこへ行ったのか。

4年前の大統領選挙の際、最高指導者のハーメネイー師はこう言った。「保守派と改革派は、イスラム共和制という飛行機を飛翔させるための両翼である」。私はそれを聞いて、この国の政治体制に夢を感じた。
しかし、今の現状は、右の翼が左の翼をはたき落とそうとしているようにしか見えない。

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