大村一朗のテヘランつぶやき日記~小康状態 2009/06/25
20日にテヘラン各地区で激しい騒乱が起ってから、今日までの5日間、比較的静かな日々が続いている。24日には、国会前での抗議集会が夕方から予定されていたが、失敗に終わった。
デモ参加者らがその場所に集まる前に、治安部隊が完全にその地域一体を裏通りに至るまで完全に占拠し、誰も近寄れないようにしてしまったからだ。この治安部隊のやり方は、デモ隊の集結を未然に防ぎ、治安部隊との全面的な衝突を回避する点では功を奏していると言える。
市街では、大規模なデモを阻まれた人々が、なんとか抵抗の火を消さないよう、各地で小規模な行進を続けている。夜9時を過ぎたあたりから、どこからともなく「神は偉大なり!」「独裁者に死を!」と、スローガンを叫ぶ声が聞こえてくる。すると、その声に呼応して、町のどこかから同じように声が上がる。互いの存在を確かめ合うかのような心細い呼び声が、いつまでも夜空にこだましていた。
政府はこの間に、着々と事を進めていた。国内外のジャーナリストを片っ端から逮捕し、精鋭部隊である革命防衛隊は、デモの徹底鎮圧を警告した。国営テレビでは、選挙検証番組が組まれ、各界の著名人に今回の選挙の正当性を滔々と語らせたり、20日の騒乱でデモ隊が治安部隊の数名に暴行を加えている映像をテレビで公開し、暴力に加わった市民を指名手配したりした。そして、現在の騒乱には、英米政府や、ヨーロッパに本拠地を置くイランの反体制テロ組織が関与しているとして、欧米の政府やメディアによる扇動を非難した。
その一方で、3人の候補者から異議申し立てを受け、選挙結果の一部を再集計していた護憲評議会は、50都市で有権者数を上回る投票者数があったことを認める発表をした。しかし、その程度の不正があったとしても、1100万票差が覆ることはないとし、ムーサヴィー氏らが求めている選挙のやり直しは有りないとの見解を発表した。
町は、一見、平穏を取り戻したかのように見える。公園では、子供たちが駆け回る横で、老人たちがチェスを楽しみ、青物市場では、売り子とおばさんが激しく言い争っている。
しかし、この人たちの中に、15日の沈黙のデモに参加した数十万人の人たちがいる。彼らは、失望と恐怖から街頭に出てこなくなっているが、情勢の行方を静かに見守っているに違いない。
「今後どうなるかはまったく予想できない。でも、一見静かに見えるときは、水面下で何かが動いているものだよ」
ムーサヴィーに投票したというタクシーの運転手はそう言ったが、水面下で動いているものが何かは、語らなかった。