大村一朗のテヘランつぶやき日記~アフマディネジャード圧勝の波紋 2009/06/13
朝10時、ニュースチャンネルで、間票結果の中間発表を見る。80%開票で、アフマディネジャード候補64%、ムーサヴィー候補36%。アフマディネジャードの圧勝だ。
投票率は85%という驚異的な数字に達した。これは、たぶん嘘ではない。候補者同士によるテレビ討論や、連日連夜続いた支持者同士の街頭討論や街頭集会は、イランの選挙では前例のないものだった。その盛り上がりと自由な空気が、高い投票率につながるだろうことは予想されていた。
海外のメディアも、そしてイランの国営メディアでさえ、今回の選挙を、変化を求める国民的な大きなうねりとして、好意的に伝えていた。
私も、何か新しい時代が始まるような気がしていた。4年前の大統領選挙より20%も増した高い投票率が意味するものは、何かを変えたいと思い、重い腰を上げて投票所に足を運んだ人たちの存在である。
その結果が、どうして現状維持を求める人たちの圧勝なのだろうか。
聞いてみると、私の周囲でアフマディネジャード候補に投票した人は決して少なくない。ムーサヴィー派の拠点のひとつであるテヘラン大学の女子学生でさえそうだった。彼女は言った。
「大統領になる人は、庶民の生活と同じレベルの生活をしている人じゃないと駄目よ。お腹が減っていない人が、空腹の苦しみを理解できるはずないでしょ」
汚職とは無縁な、清貧で庶民派の大統領。それは4年前の選挙で、常に黒い噂の耐えないラフサンジャーニー元大統領との決戦だからこそ功を奏したイメージであって、今回の選挙では、悪化の一途をたどる失業率やインフレなど、国内の経済政策が焦点のはずではなかったのか。
「ムーサヴィーは自分の経済政策についてたいしたことは語ってないわ。ただアフマディネジャードの政策を批判して、自分はあれをやる、これをやると主張してただけ。彼の掲げる自由とか変化とかのスローガンに一部の若い人たちが踊らされていただけよ」
あるいは、彼女の言う通りなのかもしれない。確かにアフマディネジャード大統領には、根強い支持層がある。改革派が浮かれていたのはテヘランだけのことで、地方では、まだまだ彼の人気は衰えていなかったのだろう。
だが、それにしては極端な結果が報じられている。イラン国営通信が報じた4人の候補の生まれ故郷の開票結果によれば、レザーイー候補の出身地の村では、900票のうち830票がアフマディネジャードに、ムーサヴィー候補の村では、7000票のうち5000票がアフマディネジャードに、そしてキャッルービー候補の町では64000票のうち40000票がアフマディネジャードの得票となっている。
そして彼がテレビ討論の中で痛烈に批判した政界の重鎮二人の生まれ故郷でも、やはり圧勝している。
ムーサヴィー候補自身は、敗北を受け入れていない。必ず自分が勝利しているはずだとし、票の再集計を求め、法的処分に訴えると声明を出した。
それに呼応するかのように、午後からテヘラン各地区の広場に、ムーサヴィー支持の若者らが集まり、抗議の声を上げた。その集会が平和的なものだったのか、暴徒と化す寸前のものだったのか、私は見ていない。治安部隊は集会を解散させるため、広場にいる若者を男女かまわず無差別に殴打し、催涙弾も使ったという。選挙前の自由な空気が、もう別の世界の出来事のようだ。
ムーサヴィー候補は明日の夕方、勝利の祝祭を挙げるとネット上で宣言している。若者の血が流れないことを祈りたい。