一方で後継者自身も業績作りと地盤固めに必死であったため、首領に対する点数稼ぎに熱を上げて、さらに虚偽報告を重ねることになった。
首領の地位は「裸の王様」と何ら変わりなかったのである。
人民に信望の厚い幹部は「(首領以外の)個別の幹部に対する幻想を持ってはいけない」という一〇大原則の規定によって、「革命化」の処罰を受ける危険が常にある。

首領にだけ気に入られ、大衆からは決して信望を集めない方法は永遠にただふたつ、人を捕らえる仕事と死刑執行だけだ。
「一〇大原則」にのっとれば、首領には喜びと満足のみを与えなければいけない。
そのため幹部たちができるのは、おべっかを使い、賄賂を差し出すことだけである。
その結果、別荘を初めとする首領への贈り物が増え、業績を称える政治的行事と記念碑の建設が増加する。そのための派手で贅沢な消費が、朝鮮経済を急速に悪化させた。

「一〇大原則」にのっとれば、首領には安泰と長寿を保障しなければいけない。
そのため首領は、長きに渡り国内外を自由に旅行することすらままならなかった。
一国の元首でありながら、世界各国の首脳が集まる国際舞台に出て、世界的なレベルの対話もできない。金日成は「口がきけない政治家」になり果てた。
一層孤独に隔離されたように暮らしていたのが、金日成の晩年である。どこへ行っても何かしらの《配役》を演じなければならなかった。
ドルと外貨が一番のパワーを持つ時代となった現在の朝鮮にあっては、「他の人間だけが得する『裸の王様』」たる首領の座に着くことを、誰もが望まないに違いない。

金正日は決して偶像化されるような「首領」ではない。
一方、その子供たちも、財産は相続できるので、敢えて後継者となる必要はないはずだ。

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