◆文化不毛の暗黒社会
人民に対する朝鮮労働党と国家の教育が失敗に終わったということは、全国推定一二ヶ所の教化所に溢れる約一〇万人の収容者と、各地に設置された革命化管理所、統制区域に追放された十数万の政治犯の実態を見ればよくわかるだろう。「もう言葉で教育する時代は過ぎ去った」というのが権力側の主張なのである。

主体思想という単一文化によって朝鮮社会は思想、学問、そして研究の一大不毛地帯と化した。世界で最も闇が深く不透明な、情報の暗黒社会なのがまさに朝鮮であるということは、誰もが知る二一世紀の常識である。

文化や観光の商品が溢れ、その需要によって経済も活性化されている現代にあって、観光どころか、国内移動の自由すら許されていないのが朝鮮だ。情報の流通が全く滞ったままの社会を継承するという困難に、後継者は向き合わなければならない。

◆不信に満ちあふれている社会
経済政策の失敗は結局のところ、党と国家が、人民と社会の支持を得られないということを意味する。
実際、朝鮮人ほど利発で勤労意欲の高い民族はいない。しかしその勤勉な人民をしても、隣国中国が経済成長によって得た一人当たりの所得には、足元にも及ばないだろう。

これまでの政策がどれほど人民の利益を無視したものだったか。党は大衆に背を向け、国家は人民に対して無責任であり、先軍政権は国民の信頼を失ってしまっている。

例をあげてみよう。一九八〇年代から、朝鮮では銀行に貯金をしても、預金者は自由な引き出しすらできなくなっていた。人民が政府や党にどうしようもない不信感を持つのも理解ができるではないか。
「嘘つきは針の穴に象を通さなければいけない」というロシアの諺がある。嘘をつく者はどんどん困難が大きくなるという意味だが、それはまさに今の朝鮮の姿である。

全国民が、お互いに疑心暗鬼になってばらばらになった世の中を、組織生活によって強制的に動かしていかねばならないのが朝鮮だ。こんな社会を統治しなければならないということも、後継者にとって大変な負担となるのは明らかだ。
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