6 法務省による米兵犯罪の統計報告
密約がいまも活きていることを裏付ける資料がある。
法務省が作成した「合衆国軍隊構成員等犯罪事件人員調」だ。毎年の全国検察庁総計に基づく統計報告である。
市民運動団体の日本平和委員会の機関紙「平和新聞」編集部が、情報公開法に基づき法務省に対して情報公開請求し、今年2009年5月に、2001年~2008年の統計が開示された。
それによると、2001年~2008年に、日本側に第1次裁判権のある、公務外の合衆国軍隊構成員等(在日米軍関係者すなわち米軍人、軍属、それらの家族)による刑法犯の処理人員数3827人のうち、起訴された者が 645人、不起訴になった者が3182人である。
起訴率は16.9%と非常に低い。一方、不起訴率は83.1%にも上る。刑法犯の被疑者となっても起訴されないままの米兵らが多いことがわかる。
年別の起訴人員数、不起訴人員数、起訴率、不起訴率は、以下の通りである。なお起訴率は、「起訴人員数÷(起訴人員数+不起訴人員数)×100 」で算出する。
年 | 起訴 | 不起訴 | 起訴率 | 不起訴率 |
2001年 | 53 | 317 | 14.3% | 85.7% |
2002年 | 76 | 414 | 15.5% | 84.5% |
2003年 | 99 | 472 | 17.3% | 82.7% |
2004年 | 116 | 473 | 19.7% | 80.3% |
2005年 | 77 | 448 | 14.7% | 85.3% |
2006年 | 132 | 339 | 28.0% | 72.0% |
2007年 | 53 | 349 | 13.2% | 86.8% |
2008年 | 39 | 370 | 9.5% | 90.5% |
計 | 645 | 3182 | 16.9% | 83.1% |
この数字を、日本人被疑者が大多数を占める全国の刑法犯のそれと比べてみよう。直近の
「法務省検察統計」(2007年年報、08年8月15日公表)によると、以下の通りだ。
年 | 起訴 | 不起訴 | 起訴率 | 不起訴率 |
2001年 | 192501 | 816299 | 19.1% | 80.9% |
2002年 | 202853 | 818167 | 19.9% | 80.1% |
2003年 | 205281 | 851138 | 19.4% | 80.6% |
2004年 | 207413 | 881855 | 19.0% | 81.0% |
2005年 | 201472 | 891636 | 18.4% | 81.6% |
2006年 | 196128 | 886489 | 18.1% | 81.9% |
2007年 | 180113 | 834187 | 17.8% | 82.2% |
計 | 1385761 | 5979771 | 18.8% | 81.2% |
これだけを見ると、在日米軍関係者の刑法犯も、日本人被疑者が大多数を占める全国の刑法犯も、起訴率において大差がないという印象を受ける。
「法務省検察統計」の「被疑事件の罪名別起訴人員、不起訴人員及び起訴率の累年比較」
しかし、法務省によると、一般的に刑法犯の起訴率を示す場合は、「自動車による過失致死傷」を含めないという。
なぜなら、「自動車による過失致死傷」は毎年、殺人、傷害、強盗、窃盗、詐欺、住居侵入など他の多くの刑法犯罪よりも、事件処理人員数が桁違いに多く、不起訴人員数が起訴人員数を大幅に上回る。
つまり、「自動車による過失致死傷」を含めると、起訴率算出式の分母が大きくなって、刑法犯全体の起訴率が大幅に下がってしまうからだ。そうなると、起訴率の実態と乖離してしまう。
だから、「法務省検察統計」でも、各種統計を分析する概説のところでは、起訴率の推移を示す場合、「自動車による過失致死傷」を除いて起訴率を算出し、刑法犯の起訴率として載せている。
つづく(文中敬称略)
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