今年の民衆の困窮の原因は、食糧不足ではなく収入の大幅な減少にあると思われる。
国営企業の大部分は経済破綻で稼動停止の状態で、ほとんどの労働者は食糧も給料も支給されておらず、民衆のほぼ唯一の現金収入源は合法非合法の商行為であった。
ところが、北朝鮮では昨年秋頃から社会のあらゆる分野で統制が強められており、今春からは個人の商行為も厳しく制限されることになった。
統制強化の原因はいろいろ考えられるが、やはり金正日総書記の健康悪化によって危機感を感じた支配層が、体制引き締めを図っていることが一番の理由だと思われる。
市場は午後からしか開かれなくなり、個人は中国製品を扱うことを禁止され、路地裏での露天の小商いまで取締りが厳しくなった。
つまり、商売行為に対する当局による統制が民衆の収入を激減させて、食糧にアクセスすることができない人を大量に生み出しているわけだ。
食糧不足ではなく、購買力の著しい低下が困窮の原因だと考える。
韓国銀行は6月28日に北朝鮮の実質国内総生産(GDP)が、前年比3.7%増加したと発表した。
だがこれは、米国発の金融危機勃発まで対中国貿易が好調だったことからくるもので、昨年秋以降は北朝鮮の経済は急速に落ち込んだと筆者は見ている。
鉄鉱石や銅、亜鉛など主要輸出物の国際価格が暴落し、外貨収入が激減しているからだ。
また韓国との関係を悪化させて毎年40万~50万トンあった食糧支援の受け取りを拒否し、開城、金剛山観光の中断によって、約50億円の収入をふいにしてしまった。
北朝鮮の経済は、昨年秋以降デフレ―ションのスパイラルに入っていたと思われる。
さらにこの4月から始まった「150日戦闘」という国民総動員運動によって、商売する時間が奪われてしまい、民衆の苦境が深まっている。
国内の民衆生活の混乱はついに餓死者を発生させるに到り、危険水位を超えた。
国際社会はさらに状況が悪化しないか注視が必要だ。
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