ジャンマダンでは『自分の商品が売れるかどうか』だけが人々の関心事であって、買う人がお金をどこでどうやって手にしたのかなんて関係ないのよ。
越北者が自分の商売の元手をどこで調達しようと、以前みたいに問い質したりしないの。
そんなこと訊くのは、時代に取り残されたほんの一部の人たちだけよ」
「それでも、法律で禁止されていることは取り締まるんじゃないか?」
「どうかしら。誰も何も言わないわよ。とやかく言ってる間に飢え死にしてしまうのがオチだもの。そりゃ目障りには違いないわよ。『あいつら、気楽に稼いで暮らしやがって』って。でもそんな人はごまんといるんだし、そもそも権力を持ってる人たちが商売やってんだから」
「暮らしぶりのいい人と、そうでない人の差があまりにも開きすぎてる。そんな社会は大変なことになるんじゃないのか」
そう言うと、先生は「ふー」と大きくため息をついた。
「ほんとにそうよね。貧富の差は天と地ほどの違いだものね。
でも、大金持ちは、平壌なら一つの洞にせいぜい数十人、地方なら一つの郡に一〇人いるかいないかでしょう。まだ世の中に波紋を呼び起こす程じゃないわ。基本的には金持ちも目立たないように暮らしていると見ていいんじゃないかしら。
「苦難の行軍」の時代に入ってすぐに商売を始めた人たちは、今頃きっと何千万というお金を持ってるはずよ。自家用車を持ってるわけじゃないけど、所属している各機関には何台も登録してるし、オートバイは個人的に持ってる人も多いわね。
家もまたしかりで、最近は、個人で家を建てるわよ。人を雇って『セメントを調達して来い、一日一五〇〇ウォン払うから』って言えば、みんな集まって来るもの。そうして立派な家を建てるそうよ。
家を建てる土地だって、今じゃお金で買えるんだもの。お金さえあれば全てOKなのよ」
と娘が言う。
「何、土地まで金で買うだと?」
先生はぎょっとした表情で呟いた。
しばらく先生は黙っていたが、頷くような口調で話を締めくくった。ひょっとするとその言葉は、私に向けられたものだったのかも知れない。
「考えようによっては、破綻した経済を立て直すためには、今のような貧富の格差は、最初は必要悪なのかも知れないな。
でも、それでも限度というものがある。幹部連中の不正腐敗をただすことが、わが国の経済を立て直す鍵なんじゃないかな」
先生の言葉が終わるのを待っていたかのように、奥さんの澄んだ声がわれわれを正月のご馳走が並べられた食卓へと呼び寄せた。
資料提供 リャン・ギソク
二〇〇八年一月
(整理 チェ・ジニ)
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