「渡江者」への処遇と南北対立状況
多くの経験者の一致した証言によれば、「渡江者」の中でも「韓国行き」を試みた者は、人民保安省(警察)ではなく政治犯を扱う国家安全保衛部の管轄対象となり、対象者は管理所(政治犯収容所)へ送られるという。
朝鮮政府は、南からの経済支援物資を受け入れる一方で、生存の脅威から逃れて「韓国行き」を試みた住民には、敵対国へ行こうとしたとして、同じ政府機関である保衛部が民族反逆者のレッテルを貼っている。
これは完全にダブルスタンダードであり、そのでたらめさは常軌を逸している。
国境地域で中国の国境警備隊から送られてきた強制送還者を受け入れる朝鮮側の窓口も保衛部である。
このような処罰に関連して、公表された法律条項すら朝鮮にはないのである。
国家の失策によって生きる術を失った人びとは、渡江してでも生活の糧を求め、懸命に生きようとしている。その彼らの悲しみや苦しみに報いるどころか、彼らを政治的に弾圧し、南北の対決に利用するなど、実に非人道的、非道徳的な行為である。
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