大村一朗のテヘランつぶやき日記~世界ゴッツの日1 2009/09/18
9月18日。朝から気分が重い。
今日、ラマザーン月最後の金曜日は、イランでは「世界ゴッツの日」である。イラン・イスラム共和国の創始者ホメイニー師が、ラマザーン月最後の金曜日をこう名づけ、パレスチナの虐げられた人々を支持するためにデモ行進を行ないましょうと世界に呼びかけたのが始まりだ。
この「世界ゴッツの日」がイスラム世界にどれだけ浸透しているのか定かではないが、少なくともイランでは、国を挙げての官製デモが催される。ちなみに「ゴッツ」とは「神聖」の意味だが、暗にエルサレムを指す。
テヘランでも今日、朝から大々的にデモ行進が予定されている。僕はもうかれこれ4、5年前に一度取材したことがあるので、ゴッツの日の行進自体にはそれほど興味はない。
だが、今年のゴッツの日は、これまでとは違うものになりそうなのだ。改革派支持者らが、この日の行進に便乗し、ほぼ2ヶ月ぶりに大規模なデモを行なおうと呼びかけていたからだ。
6月15日の、アーザーディー広場で実弾による死者が初めて出たあのデモ行進以来、僕はデモの現場に行っていない。徹底的な取材規制と監視のもと、ここで家族と暮らす自分にとっては、デモに行くのはリスクが高すぎたからだ。
逮捕されることで周囲に及ぼす様々な結果だけでなく、突如空気が切り替わり、暴力のさなかに置かれるあの瞬間の恐怖が、デモへの取材を思いとどまらせていたのも事実だ。
そんな訳で、ためらいつつも、今回のゴッツの日のデモ行進が取材可能なものなのか、どの程度の衝突が起こるのかと、ここ数日、あれこれ思い巡らせていた。
昨日の新聞では、今日の行進のルートの説明とともに、今回は海外21カ国から104名もの記者とカメラマンが取材に訪れ、テレビ局が何社、新聞社が何社、通信社、ラジオが何社と、社名まで列挙され、そこには共同通信やNHKの名前も含まれていた。
イスラエルに妥協的なアラブ諸国に対し、イスラム世界の盟主の座をアピールする絶好の機会であるゴッツの日の行進で、海外のメディアに取材許可を与えるのは当然だが、恐らく多くの西側メディアは、改革派の乱入を見越して取材申請を行なったのに違いない。
革命防衛隊は、ゴッツの日の行進で、不適切なスローガンを唱えたり、改革派の象徴である緑色を誇示しただけで断固とした対応を取ると脅しをかけていたが、これだけメディアの取材が入れば、滅多なことでは過剰な鎮圧や衝突が起ることはないだろう。
とりあえず、近くまで行ってみよう。やばそうだったらそこでやめればいい。
そう決心して昨夜は床に就いたはずだった。しかし、一夜明けてみると、どうにも気が重い。
テレビを点けてみると、すでに市内箇所からスタートし、ゴールのエンゲラーブ広場を目指す行進の模様が映し出されていた。改革派も市内箇所から行進をスタートさせているはずだが、テレビが彼らの姿を映すことはない。
「パレスチナの人々に対し、あなたたちは一人ではない、最後まで私たちが側にいるのだと、今日のこの行進を通じて伝えようではありませんか」とコメンテーターが盛んに視聴者に行進への参加を呼びかけている。向こうが公に呼びかけているのだ。それで大義名分は立つではないか。そう思い、僕はようやく重い腰を上げ、家を出た。