大村一朗のテヘランつぶやき日記~世界ゴッツの日2 2009/09/19
バスがエンゲラーブ広場の目と鼻の先まで近づいたとき、前方に道路を横切ってゆく一団が見えた。緑のテープが巻かれた手首や指を空に掲げて行進してゆく彼らは、久しぶりに目にする改革派だった。
ずいぶん堂々とやっていることに驚いた。そこはアーザーディー通りという行進のメインストリートの一つで、エンゲラーブ広場までは300メートルほどのところだ。嬉しくなってバスを飛び降り、カメラを取り出そうとした僕の目に、歩道脇にずらりと並ぶデモ鎮圧部隊のカーキ色の軍服が目に入った。
戦国武将の甲冑を思わせる装甲服は、街中で軍服姿の珍しくないテヘランでも、市民に軽い恐怖を与えるのに十分な異容だ。
見れば、エンゲラーブ広場に向かって、歩道には、鎮圧部隊、機動隊、警察、バスィージ、徴兵の若者と、これでもかというくらい警備の人員が配置されている。その中を、緑の一団150名ほどが広場に向かって進んでゆく。彼らが歩けるのは狭い路肩の歩道だけだ。今日のために歩行者に解放された車道の中央は、官製デモの行進が進んでゆく。
彼ら正規のデモ隊は、「アメリカに死を」、「イスラエルに死を」といったお決まりのスローガンに加え、「偽善者に死を」、「ヴェラーヤテ・ファギーフ(法学者による統治)の反対者に死を」といった、改革派を非難し、現体制支持を叫ぶスローガンが多く叫ばれている。彼らの持つプラカードにも、この日の本来の目的であるパレスチナ支持を打ち出すもの以上に、現体制と最高指導者ハーメネイー師を支持する内容のものが多く目につく。
それは明らかに改革派(もうこの言葉もイランのメディアでは使われず、もっぱら暴徒という言葉に取って代わられているが)の存在を意識したものだ。
エンゲラーブまであと100メートルほどまで来たところで、緑の一団は警官隊に行く手を阻まれた。彼らには、その先の広場と、さらにその先にあるテヘラン大学での金曜礼拝に立ち入ることは許されていないようだ。
その背後からは、次々と正規の行進が到着する。彼らが改革派の一団と接触すると、スローガンによる激しいなじり合いになった。正規のデモ隊の、チャドールを着たまだ幼さの残る女の子が、目を剥きながら「偽善者に死を!」と叫んでいる。彼らは所詮、官製デモではないのか。市の用意した動員バスに乗せられて、テヘラン近郊の村から年中行事の一つとしてやってきただけではないのか。この憎しみは一体どこから来るのだろう。
一触即発の状態になりながら、多勢に無勢で改革派がじりじりと後退させられてゆく。仕方なく彼らはエンゲラーブ広場への到達を諦め、元来た道を反対方向に向かって行進せざるを得なくなる。
そんなことが広場付近で何度か起りながらも、道路わきに待機している警官隊の表情に緊張感はなく、ときおり改革派の小規模な騒ぎを解散させようと割って入る警官たちも、極めて紳士的だった。一目で外国人と分かるぼくに声をかける警官もいない。
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