16 秘密にされた「運用上の取り決め」の理由
『実務資料』第2章「裁判権」によると、実際の手続きにおいて、日本国当局とは法務省のことで、法務省が、起訴することにより第1次裁判権を行使するか否かを、米軍当局すなわち在日米軍法務部(被疑者の所属する陸軍や海軍や空軍の在日司令部の法務部)に対して一定期間内に通告する。
一定期間内とは、比較的軽微な罪の事件では10日間、その他の罪の事件では20日間である。非常に短く期間が限られているため、第1次裁判権の不行使につながる原因にもなっている。
そして、第1次裁判権の不行使を通告した場合も、一定期間内に行使するのか不行使なのかを通告しなかった場合も、いずれも、第2次裁判権を有する米軍当局の手に委ねられる。日本側は裁判権を行使できなくなる。
こうした規定を利用するかたちで、「日本にとっていちじるしく重要と考えられる事件以外については第1次裁判権を行使するつもりがない」という、日米間の密約が成立したのである。
つまり、日本国当局が「いちじるしく重要」と考えない事件については、第1次裁判権の不行使を通告するか、一定期間内に行使か不行使かを通告せずに、事実上の裁判権放棄をする仕組みが作られたのである。
それにしても、日本側に第1次裁判権がある米兵犯罪について、なぜ一定期間内に起訴することにより裁判権を行使するのか、あるいは不行使なのかを通告しなければならないと定められたのだろう。しかも、比較的軽微な罪の事件では10日間、その他の罪の事件では20日間、という極めて短い期限が設けられている。この点について、『実務資料』第2章に次のような記述がある。
「これらの事件の捜査処理上、時間的な制約を受けることとなっているが、このような運用上の取り決めは、さきに述べたように、地位協定第17条第3項の規定の趣旨に従い、同規定を円滑に実施するうえにおいて、当然に必要とされるものといわざるをえない」(『実務資料』p23 )
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