米海軍厚木基地神奈川県にある米海軍厚木基地(飛行場)の正門。現在、在日米軍の施設・区域は全国に85ヵ所ある。

国家が情報を隠蔽するとき

22 公表されていなかった在日米軍の施設・区域
現在、日本政府が公表している在日米軍施設・区域(基地や演習場など)は85ヵ所ある(沖縄県33、神奈川県14、長崎県11、東京都7、広島県5、青森県4、埼玉県3、山口県2静岡県2、千葉県1、福岡県1、佐賀県1、北海道1)。全て公表しており、現在公表していない在日米軍施設・区域はないとのことである。

しかし、過去には「官報」で公表されていなかった施設・区域もある。たとえば、神奈川県横浜市にある上瀬谷通信施設だ。
上瀬谷通信施設は旧ソ連や中国や北朝鮮などの軍事用電波の傍受と暗号解読、太平洋からインド洋にまで展開する米軍の艦船や航空機との通信などを担ってきた。

『神奈川県の米軍基地』(神奈川県企画部基地対策課編・発行 2005年)によると、上瀬谷通信施設は旧日本海軍用地だった場所を、1945(昭和20)年9月2日に米軍が接収、その2年後に接収解除となったが、朝鮮戦争中の1951年3月15日に再接収して通信基地を設けた。
だが、上瀬谷通信施設は、1961(昭和36)年4月19日発行の「官報」での、調達庁(後の防衛施設庁/現防衛省)告示第4号の「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定により在日合衆国軍が使用する施設及び区域表」という一覧表に初めて含まれるまで、「官報」で公表されていなかった。

それ以前に「官報」に掲載された、在日米軍施設・区域の一覧表(1952年7月26日の「官報」にある外務省告示第34号が最初)には、上瀬谷通信施設は出てこない。
つまり、「合意事項」第8項の「但し、その軍事的性質により、特定の施設又は区域は公表する一覧表に含めない」との規定に当てはまる基地として扱われていたと考えられる。
公表されていなかった理由は定かでないが、対共産圏の軍用電波傍受・暗号解読や米艦隊の指揮命令系統の通信を担うなど軍事機密性が高かったからではないか。

1961年になってから公表された理由もわからないが、その前年に日米安保条約が改定されて現行の日米安保条約になり、日米行政協定から日米地位協定へと変わったことと関係があるのかもしれない。
外務省が作成した機密文書で、外務官僚が密かに日米地位協定の解釈・運用に用立ててきた『日米地位協定の考え方(増補版)』(琉球新報社編 高文研 2004年)に、次のような記述がある。

「(日米)合同委員会の中には『施設・区域の一覧表及び法律上の記述はできるかぎり日本国の官報及び合衆国軍隊の公刊物に公表する』との趣旨の規定があり、施設・区域の軍事的性格によっては公表しない施設・区域のあり得ることも予想しているが、現在はかかる不公表の施設・区域は存在しない(行政協定時代には若干の通信施設につき公表されないものが存在した)」(前掲書 p.34)
琉球新報が独自に入手スクープしたこの機密文書だが、外務省はその保有を否定している。外務省が日米地位協定を米軍優位に解釈・運用している実態を隠したいからだろう。

しかし、「(行政協定時代には若干の通信施設につき公表されないものが存在した)」との記述は、「その軍事的性質により、特定の施設又は区域は公表する一覧表に含めない」という、秘密の「合意事項」が実行されていた証しにほかならない。
「合意事項」全文が公表されず、その意図的な書き替えだけが表に出されていることからして、これは在日米軍の施設・区域に関する一種の密約と言える。
そして、その密約はいまも活きている。現在はすべての在日米軍施設・区域は公表されていても、仮に「軍事的性質」による必要が生じれば、いつでも公表しない事態が起きうるのである。
つづく(文中敬称略)
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