27 国内法令に反するような事項は含まれていないか?
法務省刑事局の見解として、『実務資料』の8ページに、合意事項には「地位協定や国内法令に反するような事項は含まれていない」と書かれている。しかし、それについては疑問点もある。
安保刑事特別法(日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法)は、日米地位協定第17条を円滑に実施するための国内法である。
その安保刑事特別法第11条は、日本国当局に逮捕された合衆国軍隊の構成員(米軍人)または軍属の身柄の引き渡しに関する規定だ。
「検察官又は司法警察員は、逮捕された者が合衆国軍隊の構成員又は軍属であり、且つ、その者の犯した罪が協定第17条第3項(a) に掲げる罪のいずれかに該当すると明らかに認めたときは、刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)の規定にかかわらず、直ちに被疑者を合衆国軍隊に引き渡さなければならない。
司法警察員は前項の規定により被疑者を合衆国軍隊に引き渡した場合においても、必要な捜査を行い、すみやかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない」
「協定第17条第3項(a) に掲げる罪」とは、日米地位協定第17条第3項(a) 「合衆国の軍当局は、次の罪については、合衆国軍隊の構成員又は軍属に対して裁判権を行使する第1次の権利を有する」という規定により、米軍側に第1次裁判権がある2種類の罪を指している。
1.もっぱら米国の財産もしくは安全のみに対する罪、またはもっぱら米軍人や軍属やそれらの家族の身体もしくは財産のみに対する罪。
2.米軍人・軍属の公務執行中の作為または不作為から生ずる罪。
従って、米軍人・軍属の公務執行中の作為または不作為から生ずる罪の処理に関しては、前述した安保刑事特別法第11条は、こう定めているのである。
その者の犯した罪が公務執行中の作為または不作為から生じたと、日本の検察当局や警察当局が明らかに認めたときは、被疑者である米軍人や軍属の身柄を米軍側に引き渡さなければならない。
逆に言えば、その者の犯した罪が公務執行中の作為または不作為から生じたと、明らかに認められないときは、被疑者である米軍人や軍属の身柄を米軍側に引き渡してはならないのである。
これは、前述した「合意事項」第9項(a) の「当該犯罪が公務の執行中に行われたものであるか否かが疑問であるとき」、すなわち公務執行中だったのかどうかはっきりしない場合、被疑者の身柄を米軍側に引き渡すという規定とは食い違っている。
法務省刑事局が作成・発行した内部資料で、表紙に「部外秘」と記された『外国軍隊に対する刑事裁判権の解説及び資料』(「検察資料〔66〕」1954年)のなかに、この安保刑事特別法第11条について興味深い解説が載っている。「日本国の当局から合衆国の軍当局への身柄の引渡」という項目のところである。
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