28 国内法令よりも日米の秘密合意事項を優先
安保刑事特別法第11条の規定と「合意事項」第9項(a) の内容が相反している点をめぐって、過去に検察当局者の間にもそれを指摘する声があった。
法務省刑事局が作成・発行した内部資料で、表紙に「部外秘」と記された、『外国軍隊に対する刑事裁判権関係通達・質疑回答・資料集』(「検察資料〔134 〕」1965年 以下、『通達・質疑回答・資料集』)の、「質疑回答」の部、米軍人や軍属である被疑者の「身柄の取扱い」の項目に、次のような質問と回答が載っている。
1960(昭和35)年7月17日開催の主要地検察庁外事係検事会同における質疑回答で、質問者は東京地検の検事である。回答者は法務省刑事局の担当者だと思われる。なお、引用文を読みやすくするために読点を適宜、筆者が加えた。
「問 刑事特別法第11条第1項によれば、日本側捜査官憲は逮捕した合衆国軍隊の構成員又は軍属の犯した罪が協定第17条第3項(a) に掲げる罪のいずれかに該当すると『明らかに認めたとき』は、直ちに被疑者を合衆国軍隊に引き渡さなければならないが、合意事項9(a) はこの点につき、『当該犯罪が......又は公務の執行中に行われたものであるかどうか疑問であるときには被疑者の身柄を当該(米軍)憲兵司令官に引き渡すものとする』としている。実務上の取扱は合意事項によるべきことになると考える(但し昭和29年10月刑事局『外国軍隊に対する刑事裁判権の解説及び資料』32頁以下はこれと反対の見解をとる)が、この点に関する見解を教示願いたい。(東京)」(前掲書 p.112 )
「答 日本側捜査機関が、合衆国軍隊の構成員、軍属又はそれらの家族を逮捕した場合の取扱いについては、合意事項9(a) によるべきである。
(なお、検察資料〔66〕32頁以下は、刑事特別法第11条の解説を主眼とするものであるため、合意事項による場合を含むこれらの取り扱いについての解説としては、必ずしも十分ではない。)」(前掲書 p.112 )
次のページへ ...