文: チョン・ソンミ (キルスの母)
食糧事情はのっぴきならなくなっていた。
すべてが枯渇して、死の影が目の前にやってきたわが家。最後の瞬間に妙案がひとつ浮かんだ。墓地の盗掘であった。
北朝鮮全土で金製品、骨董品を手に入れるための墓地盗掘合戦が激しくなっていた。山といわず野といわず、古い墓地をやたらと掘り起こすので、国からは禁止の布告が下され問題となっていた。しかし生死を賭けたこの「戦い」は、どんな力を持っても抑えることはできなかった。
ある日、長男と三つ下の次男が私の心情をさとったようだった。私たちは頭を寄せ合って相談し、見解の一致をみた。不法なことなので夜に決行しなければならない。
昼間のうちに墓地の地形と地質について細かく偵察しておく必要があった。朝鮮の歴史のことをよく知っている長男が、それをうまくやった。こうした危険な仕事は、母親である私がしなければならなかったが、墓地の盗掘だけは自信がなかった。それも夜に行わなければならない......。子どもたちの判断は確かであった。
「お母さん、これは男がする仕事だよ。お母さんは行かないでいいよ」
子どもたちがいっしょに行こうと言ったらどうしたものかと心配していたので、一方ではほっとした。しかし、心は落ち着かなかった。悪いことを子どもたちにさせるということが、親として心に引っかかっていた。
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