文: チャン・キルス
無事に帰ってくることを願うお母さんを後にして、ぼくたち兄弟は夜がふけてから家を出た。
一寸先も見えない闇の道。
兄さんがスコップとつるはしを背負ってそろそろと前を歩き、その後ろをぼくはのみを持ってついて行った。ぼくたちは男だ、と心を決めて出発したが、村を出て山のふもとまでやって来ると、ぶるぶると恐ろしくなった。
その時、後ろから(うっ)という声が聞こえた。
ぼくたちは息を殺して、後ろも振り返らずに、足の先に火がつくほどの勢いで歩みを早めた。そしてぼくはそっと兄さんを呼んだ。「兄さん。後ろから何かついて来ているよ。後ろ見てよ」
兄さんも恐ろしいのは同じだ。弟の言うことを聞こうとするはずがなかった。
あちらこちらから、怪しい声が聞こえてきた。
両の手に汗を握りしめながら歩き、ようやく山の中腹に至った。枯草にこすれ、木の枝が刺さって、顔がひりひりした。
この時、前の方から「ザクッ」と音がした。びっくり仰天したぼくたち。
[こんな夜中に山にだれかいるのだろうか?]
瞬間、「バサッ」という音がして、土を掘っていた4、5頭の猪が、人を見て驚き、山を走って下っていった。
ようやく谷あいを回りこんで、やっとこさ着いたと思ったが、目的地に到着した喜びより、背中がひんやりして、身の毛がよだった。
墓地に近づくにつれ、鬼神(お化け)が襲ってくるような気分だった。
[やはり何かいる]。墓地の前には真っ黒な何かが立ちはだかっていた。魂が抜けたようなぼくたち。しかし[目的を果たすためには引き下がってはならない]と思い直し、勇気をもって一歩ずつ近づいていった。
近寄って目を大きく見開いて見ると、それは墓地の前に立てられた石仏だった。昼に偵察したときに見ていたはずなのだが、あまりにも緊張していたため、それが人のようにに見えたのだった。
ぼくたちは墓地を掘り始めた。まっ暗闇の中で、心細い月明かりが、照明灯のように照らしてくれた。墓を掘れば掘るほど怖くなった。指の先はまっ赤にすりむけ、汗のしずくが雨のように流れ落ちた。5~6メートル掘り下げると、石灰の層が現れた。
「兄さん、昔のお金持ちは石灰で棺を作ったんだって。この中に貴重な宝物があるはずだよ」
のみで石灰層を砕いた。苦労の末に、人が入るだけの小さな穴ができ上がった。
しかし思いがけない障害物が現れた。棺の中には水がいっぱいに詰まっていたのだ。苦労してその水を汲み出し、体の小さいぼくがその棺の中に入った。まっ暗な棺の中で宝物を手探りしていたぼくは叫んだ。
「あったよ。高麗青磁だ」
墓の上から、そわそわしていた兄さんが叫んだ。
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