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『実務資料』に載っている「合衆国軍隊の構成員又は軍属の公務の範囲について」の通達。[上の画像をクリックすると拡大します]
国家が情報を隠蔽するとき

31 米軍人・軍属の公務の範囲を拡大解釈する日米合意
日米地位協定第17条第3項(a)( ii)の「公務執行中の作為又は不作為から生ずる罪」、つまり米軍人・軍属が公務執行中に犯した罪の第1次裁判権は米軍側にあるとの規定をめぐっては、まだいくつもの問題点がある。
この第17条第3項(a)( ii) に関して、日米地位協定の交渉において到達した日米間の了解を記録した合意議事録(以下、「合意議事録」)に、次のような規定が記されている。なお、「合意議事録」は1960年1月19日の日米地位協定締結と同時に、日米両政府の全権委員によって署名された文書で、日米地位協定と同様に全文が公表されている。
(「日米地位協定」全文はこちらをクリックするとPDFで読むことが出来ます。)
(「合意議事録」全文はこちらをクリックするとPDFで読むことが出来ます。)
「合衆国軍隊の構成員又は軍属が起訴された場合において、その起訴された罪がもし被告人により犯されたとするならば、その罪が公務執行中の作為又は不作為から生じたものである旨を記載した証明書でその指揮官又は指揮官に変わるべき者が発行したものは、反証のない限り、刑事手続のいかなる段階においてもその事実の十分な証拠資料となる。前項の陳述は、いかなる意味においても、日本国の刑事訴訟法第318 条を害するものと解釈してはならない」
国際問題研究者で、米兵犯罪裁判権をめぐる日米密約に詳しい新原昭治は、「その罪が公務執行中の作為又は不作為から生じたものである旨を記載した証明書」いわゆる「公務証明書」を、いかに米軍側が簡単に発行し、日本の第1次裁判権の適用を免れるために利用しているかを指摘する。
「まず、この規定は米軍人や軍属が公務中なら日本の刑事裁判権が及ばないとして、主権国家である日本の領土内で日本の主権行使に大穴を開けた重大な問題です。しかも、米軍側はその大穴を絶えず拡げようとして、公務の範囲の拡大を追求しています」

その代表的な例として新原が挙げるのは、在日米軍基地の外における米兵の交通事故に関する日米の合意である。それは1956(昭和31)年3月28日の日米合同委員会で合意され、同年4月5日の『第134回日米合同委員会議事録』に収録されている。
法務省の秘文書である『実務資料』と『関係通達・質疑回答・資料集』には、その合意内容を全国の検察当局者に周知するための、1956年4月11日付けの法務省刑事局発、検事総長、検事長、検事正あて通達が載っている。それは「合衆国軍隊の構成員又は軍属の公務の範囲について」と題され、次のように書かれている。
「合衆国軍隊の構成員又は軍属のその認められた宿舎又は住居から勤務の場所への往復行為が、日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第3条に基づく行政協定第17条第3項(a)( ii) にいう「公務」に該当するかどうかについては、予てから、日本国の当局とアメリカ合衆国の軍当局との間に見解の相違する点があり、その調整に関し、日米合同委員会刑事裁判権分科委員会において協議を重ねてきたところ、去る昭和31年3月27日の同分科委員会において、合衆国軍隊の構成員又は軍属が、その認められた宿舎又は住居からその勤務場所への往復の途中において起こした交通事故に関する事件について、別添(1)のような解釈をとることに両国の当局間の意見が一致し、同月3月28日の日米合同委員会においてその承認があったから、通知する。よって、今後事件処理に際しては右によることとせられたい」(『実務資料』p.203 ~204 )
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