安全員につかまる
(文) チャン・キルス
「なぜ、そんなに服がぬれているんだ?」
「魚をとろうと遊んでいてこうなってしまいました」
その時だった。指導員の拳骨がいきなり飛んできた。ぼくたちが嘘をつくからだと言った。僕らは国境警備部隊に連れて行かれた。
部隊に入ったとたん、小隊政治指導員はぼくたちから、あれこれ聞き出そうとした。
「この村になぜ来たのか?」
「食糧をもらいにきました」
「中国に何日いたんだ?」
「中国には行っていません」
「中国にいる親戚はだれで、どこに住んでいるのか? 中国には何回行ったのか?」
「親戚はいません。一度も中国に行ったことはありません」
ぼくが、中国に行ったことはないと何度も言うと、指導員は、ぼくたちを食ってしまおうというようににらみつけ、狼のような顔になった。越境者一人でもつかまえて、上層部に引き渡すとほめられ、昇級できるからだろう。それでぼくから何とか吐かせようとしているようだった。
「党のふところはかぎりなく広く温かいから、真実を話してこそ許されるのだ」
ぼくは指導員の言葉には耳を貸さず、嘘ばかり話した。
その次にミング兄さんを尋問した。
ところが警備隊員の一人がぼくを見てひとこと言った。
「前につかまえたガキがまたつかまって来たか! 今回も川越えをしてつかまったのか?」
彼の言葉に、自分は食糧をもらいに来たと言った。
「それでは、お金はどこにあるんだ?」
「なくしました」
「どこでなくしたんだ?」
「............」
(つづく)
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