米空母キティホーク

米海軍横須賀基地に停泊中の米空母キティホーク。加害米兵はこの空母に乗り組んでいた。同空母はイラク戦争での空爆作戦にも参加した。
国家が情報を隠蔽するとき

45 米兵が犯罪を起こす構造的問題
判決文には、本人の供述などに基づく、犯行当時のリースに関する記述がある。彼が乗り組んでいた空母キティホークは、2005年10月24日に横須賀を出港し、同年12月12日に帰港するまで、西太平洋において過去50年間で最大の海軍戦力を集結させた年次演習を、自衛隊と共同でおこなっていた。

横須賀帰港後、リースは帰郷を希望していたが、他の乗組員がすでに休暇申請をしていたため、自分は認められないだろうと考え、休暇申請をしなかった。そして、米兵向けの酒場に頻繁に通った。犯行当日の朝5時30分頃、飲み明かして酒場を出たとき、彼は非常に苛立っていた。

その理由は、帰郷を希望していたが日本にとどまらざるを得なかったこと、任務が危険で単調なためストレスを感じ、給料も高くないため不満を感じていたこと、単調で進歩のない生活をしていたこと、酒場で金を浪費してしまったこと、交際相手の女性と頻繁にけんかをしていたことなどである。

「ですから、単に一部の不心得者の米兵がいるという問題じゃないと思うんです。軍隊で人殺しの訓練を受けた米兵たちが強いストレスにさらされて、飲酒に走り、事件を起こすという構造があるんです。だから、米兵にそういう訓練を受けさせて、強いストレス環境に置いている米軍には、組織として米兵をきちんと監督し、管理する責任があります。日本政府にもそうさせる責任があります。しかし判決では、軍人特有の暴力性の問題には目を向けず、米軍と日本政府の責任も見逃しています。これでは、米兵犯罪が繰り返されるばかりです。妻の無念も晴れません」

山崎はそう語ったあと、「いまでも家に帰ってドアを開けると、思わず『ただいま』と言ってしまいます。でも、誰も答えてくれません。そこで、ああ、そうだったと、好重のことを思い出します」と、妻の永遠の不在についてふれた。

「好重の位牌の前で、線香を上げて、毎日のできごとを話します。位牌には、好重の血がこびりついたネックレスがかかっています。血は好重が生きていた証しです......。このネックレスは、好重の母親のネックレスと私の母親のネックレスを溶かして作ったものです。好重は普段からこのネックレスを肌身離さずつけていて、殺されたときにも身につけていました」

「私は、好重が使っていたものは、何ひとつかたづけていません。スリッパ、おはし、茶碗など一つひとつを見るたびに、悲しさと悔しさでやりきれません。妻を返してくれと、私は裁判を通して言いたいのです。それができないのなら、国と米軍には責任をとって欲しいのです。もうこれ以上、私たちのような被害者が出ないようにという願いからです」

山崎の妻が殺された事件から間もない2006年1月19日、在日米海軍司令部は米海軍人、軍属、それらの家族に対し、基地外のバーやレストラン、その他の公共の場において、日曜日から木曜日までの午後11時~午前6時、金曜日と土曜日と祝日の午前1時~午前6時、飲酒を禁止する命令を発した(その後すぐに、軍属及び軍人・軍属の配偶者への禁止は解除され、軍人に対しても、月曜日~金曜日は午前0時~午前6時、土・日曜と祝日は午前1時~午前6時にと緩和された)。

この飲酒規制に関する公式発表のなかで、当時の在日米海軍司令官ジェームズ・D・ケリー少将は、「アルコールの濫用が、ほとんどの不祥事の原因となっています。私たちはこの現状を変えなくてはなりません」、「私たちの目標は事件や事故の発生をゼロにすることです」と述べている。

しかし、その後も、米軍人や軍属による事件は繰り返されている。2006年9月17日、横須賀を母港とする米海軍揚陸指揮艦ブルーリッジ乗組員が横浜駅東口で、乗ってきたタクシーの代金を支払わず、支払いを求めた運転手の顔面を殴打するなど暴行を加えて、鼻骨骨折など全治約1ヵ月の重傷を負わせた。

同年11月2日には、米海軍横須賀基地正門の向かいにあるバーで、バーの共同経営者である在日米海軍統合人事部人事部長(軍属)が、店に来ていた日本人客の男性を外に押し出し、店の前の歩道に突き倒して、頭蓋骨骨折と脳挫傷などを負わせ、放置して死亡させた。

2007年7月5日、横須賀を母港とする米海軍フリゲート艦ゲアリー乗組員が、横須賀市内のアパートの部屋で、知り合った日本人女性二人と口論に及んだ末、ステーキナイフで何度も突き刺し、重傷と軽傷を負わせる殺人未遂事件が起きた。

2008年3月19日には、横須賀を母港とする米海軍イージス巡洋艦カウペンス乗組員が、横須賀市内で、乗ってきたタクシーの料金を支払わずに、運転手を包丁で刺し殺した。
このような米兵犯罪が横須賀だけでなく各地で後を絶たない。
つづく(文中敬称略)
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