ビルマ最北の村・タフンダン
※お断り ミャンマー(ビルマ)入国取材の安全を期して、宇田有三氏は「大場玲次」のペーネ ームを使用していましたが、民主化の進展に伴い危険がなくなりましたので、APN内の記事の署 名を「宇田有三」に統一します。
私の横に黙って座っていた10歳くらいの男の子が、唇をわずかに開き、ヒュールル・ルー、ヒュウ、ヒュールル・ルー、ヒュウとリズムに乗った口笛を奏でる。時おり、そのかすかでひかえめな音に、何やら言葉が混じっているようだ。何気なくその調べを聞いていた私は、そこでようやく気づいた。そうだったのか。ようやく謎が解けた。
私はその時、伝統的なチベット人の家に上がり込んでいた。ひと抱えもある太い柱に支えられた高床式の家である。
仄暗い部屋の中で、テレビが青白い光を放っている。画面にはカラオケ用のVCD(ビデオCD)が映っており、歌と踊りの様子が、タンタンタ縲怎刀Eド縲怎刀Eジャ縲怎塔Wャ縲怎刀Eジャンと音を立てて流れている。
私の周りには、遠方からの異邦人を見ようと村人が20人ほど集まって、膝を接して固まって座っている。彼らは私を目にすると、まるで奇異なモノを見るような眼差しを投げかけてくる。彼らの黒い瞳には、しっとりと炎を上げる囲炉裏の残り火が映っていた。
ここでも同じだった。私は「見る」ためにこの村に来たのだが、実は「見られている」。この立場の逆転って、なんなんだろう。柔らかな野生鹿の毛皮の上に座らせてもらっているが、気分は落ち着かず、居心地が悪い。
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