金正日政権の突然の「貨幣交換」措置=デノミの目的は何なのだろうか?
北朝鮮当局は朝鮮総連の機関紙・朝鮮新報などを通じて次のように説明している。
(1) インフレ退治
(2) 社会主義原則と秩序に基づく経済管理強化
(09年12月11日付け朝鮮新報)
北朝鮮は建前上は、計画経済体制と消費物資の国定価格による配給制度を放棄していないのだが、農業不振は続き工業生産も、軍需品などの一部工場を除いて、ほとんど麻痺状態である。
一方で、90年代からは自然発生的に急拡大した市場経済が中国とリンクしつつ、実体経済を牛耳るほどに成長した。
インフレもひどく、この10年で消費者物価は20-25倍も上昇した。国の定める労働者の月給や物の公定価格が、実勢の相場と乖離してしまっているのは確かである。
コントロールの効かなくなった市場経済を抑え込んで統制することと、物価の安定を図ること、北朝鮮当局は、これをデノミの目的だとしている。
しかし、デノミがインフレを是正するためであるなら、交換上限を10万ウォンと低く設定することも、交換期間をたった一週間と定めることも意味がない。
金正日政権が電撃的に断行した今回のデノミの主目的は
(1) 政治的には、増殖する一方の市場経済の統制
(2) 経済的には、国民からの資金強奪
というのが筆者の見立てである。
市場経済の増殖は、国民が経済活動の自由領域をどんどん広げていることを意味する。それは金正日政権の独裁維持の要である人民統制が弱体化しているということに他ならない。
つまり、市場経済のこれ以上の増殖は、体制維持にとって脅威だとの判断があって、デノミによって、市場経済システム自体に一定の打撃を加える政治的意図があったものと思われる。
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