「午前と午後で値段が変わるほど物価上昇が激しかった。市場には米を売る人のほかには、衣服や雑貨を売る人の影もない。
中国から入る品が不足しているうえ、こう値段が上がっては、先が読めなくて商人たちも売りようがないのだ。庶民は絶望的になっている。このままでは餓死者が出るのも時間の問題だと言い合っていた。

北朝鮮は90年代のように修羅場になるかもしれない」
北朝鮮の一般民衆が食糧を確保する方法を知るためには、次のような配給経済の現状を理解しておく必要がある。

・食糧配給がまともに出ているのは、党、行政、軍の幹部、警察官、保衛部員(情報機関員)ぐらいである。
・軍需産業、炭鉱や重要鉱山、鉄道などでも配給は家族分はなく、本人分が規定量の10-50%程度出ているぐらい。
・特別扱いの平壌でも、昨年春以降の配給は規定量の10-30%程度。
・勤労者の大多数を占める教師や一般工場労働者には、現在、配給も給料もほとんど出ていない。

つまり、国の食糧配給システムは機能しておらず、筆者の推定では、国民の70%ほどは食糧配給はほぼゼロ。ほとんどが商行為をして、あるいは非合法に自分の労働力を売って(ヤミ労働)現金を得て、市場で食糧を買って食べているのである。

重要なのは、北朝鮮の民衆は、このようにして現金を得ることによって、初めて食糧を手に入れる「権原」を獲得できるという点だ。
言い換えると、この商行為やヤミ労働に支障が生じると、途端に現金収入がなくなり、たちまち食糧にアクセスできなくなってしまうのだ。
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