北朝鮮が大混乱に陥っている。
昨年11月に電撃的に行われた「貨幣交換措置」(デノミネーション)によって超インフレが発生、食糧にアクセスできない人が生み出され、二月に入って各地から餓死者が出ているという報せが届いている。
筆者は一月下旬まで朝中国境地帯を取材していた。
北朝鮮内部の取材協力者たちによれば、デノミ断行直後から物価が急上昇し経済が混乱、一般民衆の間には90年代飢饉の再来を危ぶむ動揺が広がっているという。三回にわたって、デノミの混乱について報告する。
突然のデノミ
朝中国境地帯では、非合法の越境者、合法的に中国に出て来た人たちに取材した。
それに加え、北朝鮮内部の取材協力者たちと北朝鮮内に送った中国の携帯電話で連絡を取っている。彼らの話を総合すると、デノミは次のように実施された。
金正日政権が11月30日断行した新旧通貨を取替える「貨幣交換措置」の概要は次のようなものだった。
(1) 旧来の通貨単位ウォンを100分の1に切り下げる
(2) 一世帯あたり旧紙幣10万ウォンを交換の限度とする
(3) 10万ウォンを超えた金額は銀行に預ける。但し上限は50万ウォンまでとする。
(4) 銀行に預けた金額は100分の1では無く、10分の1で取り扱う(預金は自由に引き出せない)。
(5) 一人当たり500ウォンの配慮金を分配する
限度額以上の旧貨幣は紙くずになってしまうわけで、「貨幣交換」の翌日から慌てた庶民たちは貨幣交換所や、物資に買ってしまおうと商店に押しかけてちょっとしたパニック状態に陥ったという。
ちなみに、旧ウォン10万ウォンというのは実勢レートで約2500円。地方都市の中間層のざっと一か月の生活費である(首都平壌はこの二倍程度)。
それ以上の金は無効になるというのだから、なんとも無茶な措置である。
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