山中の道程にて(中)
※お断り ミャンマー(ビルマ)入国取材の安全を期して、宇田有三氏は「大場玲次」のペーネ ームを使用していましたが、民主化の進展に伴い危険がなくなりましたので、APN内の記事の署 名を「宇田有三」に統一します。
例えば今回、山歩きをしながら、村から村へと訪ね歩いていた。確かにしんどいことである。
苦行とも感じる山歩きで、ハアハアと詰まるような息づかいが続き、肺の表面は締め付けるように痛み始まる。ぬかるみに足をとられ続け、膝はガクガクと震える。休憩で立ち止まっても、惰性で足の震えは止まらない。足の裏は、蜘蛛の巣のような形でヒビ割れ、ヒリヒリと激痛が走った。
何が好きでこんな果ての山の中を歩かなきゃあならないんだ。毎回のことなのだが、空しさがこみ上げ、ひたすら後悔の念に襲われる。取材であっても、二度と山歩きなんかするもんか、といつも思う。
ところがある時、思いも寄らないことに出くわした。
朝早く、野営地を出発する。歩き始めて最初の半時間くらいは、私もガイドのウー・テェットンも、足取りも軽く山を登り続ける。
ポーターたちは全員、山歩きが生活の一部であるラワン民族の人で、それぞれがお気に入りのラワン語の歌を口ずさみ、フフフ~ンと鼻の奥を振るわせながら足を進める。歌や音程はバラバラだ。
1時間も歩き続けると、さすがに山歩きに慣れたポーターたちも、背負った荷物の重たさで、シャツに汗を浮かび上がらせる。軽快な鼻歌は、ハァハァと大きな息使いに変わっている。
ふと気づくと、バラバラに歌っていた何曲かのラワン語の歌が、1つになり、ポーター7人全員が、息を合わせたようなフフフンの鼻歌になって、調子を取りながら歩き始めている。
誰が先導したわけでもない。自然と1つの形になってリズムをつけている。その調子に乗ると、私のふらつく足も、確かに荷物の重さはキツイのだが、鼻歌につられて動き続ける。
フフフン、フン。フフフン、フン。フンフン。
このリズムは、1年以上経った今でも、言葉では表現出来ないが、頭の中と身体に染みついている。