次第に「貨幣交換」の内容がはっきりしてくると、カンさんは真っ青になった。人民元に交換されないまま手元に残っている借金の旧ウォン札一〇〇〇万ウォンを、どうすればいいのか。布告によると、一世帯あたり一〇万ウォンまでしか交換できず、しかも一二月七日以降は一切旧紙幣は使えなくなるという。金を貸してくれた知人と談判しなければならない。このままでは自分には莫大な借金だけが残ることになる。
◆ウさん
ウさんは「貨幣交換」の知らせを、外出から戻ってきた姉の夫に詳しく聞いた。義兄は沈鬱な表情である。交換上限の一〇万ウォンを超える旧ウォンをどうすればよいのか考えあぐねているようだ。
◆ケさん
人民班の班長の口から直接、「貨幣交換」について説明があった。ケさんは、この状況が自分にとってどのような意味を持つのか頭を巡らせた。大丈夫だ。先月、両江道から南に遠く離れた江原道に行って、現金で柿を仕入れてきたばかりである。手元にあるウォンは多くない。大きく損害を受けることはないだろう。
◎一二月一日(「貨幣交換」開始二日目)
◆カンさん
この日、カンさんの家に人民班長がやってきた。旧紙幣を預かっていき、洞事務所(役場)で新紙幣に換えて持ってきてくれるという。カンさんは自分の名前を書いた封筒に一〇万ウォンを入れて渡した。
それから情報収集のために、市内の総合市場に出かけてみた。江界市は人口三〇万の都市なので、市場の規模も大きい。しかし市場では誰も、物を売ろうとしない。一世帯一〇万ウォンという交換上限が設けられたため、当然ながら誰もが余分な旧貨幣を手放したいわけで、売り惜しみがひどい。
しかし、市場が閉鎖されているわけではない。人は市場に入れるし、当局が商売を特別に取り締まっているという訳でもない。ただ、物を売る人が皆無なのだ。同じように情報収集のために多くの人が集まっているが、私服の保安員(警察官)が大勢出動していて、人々に家に帰るように、大勢で集まらないように、誘導している。
市場を後にしたカンさんは一〇〇〇万ウォンを借りた知人のもとへと向かった。今回の貨幣交換は予め告知されていたものではないため、一〇〇〇万ウォンを旧貨幣のまま返済したい旨を伝える。しかし、その知人は新貨幣(一〇万ウォン)で返せという。知人も一歩も引き下がらない。議論は平行線を辿るばかりで、結局この日結論は出なかった。
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