ドキュメント デノミ断行の衝撃 その時民衆は(2) 整理 リ・ジンス
◎一一月三〇日(「貨幣交換」開始当日)
◆カンさん
カンさんは朝一〇時、家にある三放送(注1)のスピーカーから、「本日から貨幣交換を始める」という放送を聞いた。半信半疑のカンさんはすぐさま家から通りに飛び出した。既に数人の女性が道端に集まって「貨幣交換」の真偽について話をしているので、カンさんもその輪に加わる。どうやら話は本当のようだ。その場に居合わせた女性たちは皆、当惑している。
昨日の両替商の態度にも合点がいった。華僑たちは事前に、「貨幣交換」があるということを察知していたのだろう。顔見知りの両替商に電話をかけて確認してみると、昨日の時点で銀行の動きが怪しかったので、何かあると思って両替に応じなかったのだという。
カンさんはふと、数ヶ月前から銀行が通常の相場よりも高い値段で人々から金(きん)を買っていたことを思い出した。グラムあたり九万ウォンほどだった金の価格は、一四万五〇〇〇ウォンにまで高騰していた。
金相場の上昇は一ヶ月以上続いていた。使い物にならなくなる旧ウォンをあらかじめ、信用の揺らがない金に換えておこうとしていたわけだ。権力者たちは「貨幣交換」の断行を事前に知っていたのであろう。
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