ドキュメント デノミ断行の衝撃 その時民衆は(3) 整理 リ・ジンス
◎一二月三日(「貨幣交換」開始四日目)
◆ケさん
農業機械を作る工場で指導員を務めるケさんの息子に給料が支払われた。金額は二〇〇〇ウォン。「貨幣交換」前と同じ金額である。計算上は月給が一〇〇倍になったことになる。以前は二〇〇〇ウォンで買えるのはわずかコメ一キロで、公定の給料は実生活では意味をなさなかった。これからどうなるだろう。
◆ 清津(チョンジン)市からの消息
清津電話局の前の大きな道路に黒の乗用車が何台か停まっていた。通行人が何だろうといぶかしく思っていると、旧紙幣を車に積んで農村に向かう車だという。交換上限が一〇万ウォンを超える金を貯め込んでいた金持ちたちが、現金の少ない農村に旧ウォンを持ちこんで、一〇~二〇%の手数料で代理交換を頼みに行くのだという。交換期日が近づくと手数料は五〇%になったという。
また清津市では、ヤミの外貨両替商に対する取締りが厳しくなっている。外貨商店などに着飾った若い女性の両替商がたむろしているが、保安員(警察官)が目を光らせてなかなか交渉ができない。
◎一二月五日(「貨幣交換」開始六日目)
◆カンさん
この日、一〇〇〇万ウォンを借りた知人との間に、返済について一応の合意を見ることができた。各々が半分ずつの五〇〇万を負担することに決めたのだ。返済をどんな方法でするのかはまだ決まっていない。当初の全額負担から半分に減ったものの、それでもたいへんな借金であることに変わりはない。
午後になると、人民班長が住民登録名簿を持って、家を訪ねてきた。一人当たり五〇〇ウォンの現金を支給するという。世帯主である夫の公民証を見せると、四人家族なので二〇〇〇ウォンを新ウォンでくれた。この五〇〇ウォンはセッピョル将軍(新星将軍)の配慮金なのだそうだ。噂によると、今回の「貨幣交換」措置そのものがセッピョル将軍の立案によるものだという。セッピョル将軍とは金正日総書記の息子の金ジョンウンのことだというのは公然の秘密だ。
◆ウさん
ウさんはこの日、一週間ぶりに会寧の市場を訪ねてみた。最も気になるのはやはりコメの値段だが、一キロ当たり五〇ウォンだという。一〇〇分の一に切り下げられたのなら、二〇ウォン程度でなければならないはずだが、もう二倍以上に値上がりしている。コメの供給が円滑に行われないかぎり、コメの値段はどんどん上がっていくだろう。
この日は、商人たちが売り惜しみする中で、やっとの思いで五キロ購入して家路についた。自分のところはそれでも姉の夫が持つ外貨があるから当分は安心だが、そうでない人はどうやって暮らしているのだろうか。
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