北京へ
6月中旬、大連の隠れ家で、文氏とキルス一家10人に会った。しかしこの時点では、一家の中でも意見は一致していなかった。万一UNHCR突入に失敗すれば、北朝鮮送還は避けられそうにない。
だがモンゴルなど第三国に密出国して韓国を目指す方法であれば、途中で逮捕されても隙を見て逃げ出せるかもしれない、そう考えた年長の少年3人は、別動隊としてモンゴル国境を目指して出発することになった。
一家のうちで最も気性が激しいのはキルスの母方の祖母のキム・チュノクさん(66)だった。一度捕まって強制送還された経験があるだけに、他の家族が迷いを見せても彼女の考えは明快だった。
「このまま中国で隠れ住んでいても、難民狩りがこうも厳しくてはいつかは捕まる。それなら、国連に乗り込んでいって世界中に訴える方がいい」
チュノクばあさんの強硬意見につられて、一家の方針は次第にラディカルな方向に振れていった。行動に最も消極的だったキルスの伯父リ・ドンハクさん(49)までが闘うと言い出した。
「飢えから逃れて自由を探しに出てきた我々に何の罪があるというんだ。国連に行って、我々の言うことが正しいのか、金正日の独裁が正しいのかはっきりさせようじゃないか!」
6月22日、一家は意思を統一してバスで北京に乗り込んでいった。
つづく >>>
(記:石丸次郎 - 2001)
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