「オモニ、そんなやばいことを口にしないで」
と、娘がなだめるが、怒りはなかなかおさまらない。
◆ 平壌(ピョンヤン)市の兄弟山(ヒョンジェサン)区域からの消息
スピーカーを積んで街を流す当局の宣伝車が「旧ウォンを燃やしたり破ったりしないように。後に国家的措置があります」と広報していた。また人民班の回覧には「お金を節約しましょう」とあった。
個人のみならず、社会団体や企業所が保持していた旧ウォンも、交換に応じてもらえないようである。農場員には、多額の「配慮金」が支給されるという。平壌の農村では新ウォンで一万五〇〇〇~五万ウォンが支給された所があった。
農村に多額の現金がばらまかれたことで、農民が食糧を手放さなくなり、流通量が減って、価格上昇を招いた。
◎一二月一〇日
◆カンさん この日も江界の市場は開店休業状態。人々は一体どこで食糧を手に入れ、どうやって暮らしているのか不思議だ。コメを持っている人の家に行けば売ってくれるらしいが、売る方の言い値だという。
それもそうだろう、値段は天井知らずだし、コメが大量に江界市内に入ってきたという話も聞かない。江界のコメは、南西部の黄海道から入ってくるか、中国から入ってくるかだ。だが中国は穀物の輸出を厳しく制限しているというし、黄海道からコメが列車で届いたという話も聞かない。
◎一二月中旬
◆カンさん
中国へと旅立つ前日、ウォンと人民元のレートは一元あたり一六ウォンにまで上昇していた。交換レートの発表から一〇日も経たないうちに、ウォンの価値は三分の一程度にまで下がってしまったことになる。
状況はどんどん混迷の度を増しているようだ。餓えに苦しんでいる人々がいるという話も聞こえてくる。自分たちがしたように、全ての財産を手放してでも食糧を確保しなければならなかったのに、そのような判断をできなかった人たちは、食べ物に困るしかない。誰も助けてはくれないのだから......。娘たちも、ひとつまちがっていたら、今頃飢え死にしていたかもしれない。
◆平壌市の兄弟山区域からの消息
食糧を調達できず白菜汁だけでしのいでいる人が増えている。老人の中には餓死する人も出始めた。
(この稿、おわり)
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