北朝鮮から中国への親族訪問が再開(注2)
カン:二〇〇八年の八月から〇九年の六月末まで、中国への親族訪問はすべて不許可でした。二〇〇九年五月末までは、(保衛部の)外事課の門が閉ざされたままだったんです。それが今年六月一日から受付が始まって、七月には旅券が出始めて、「貨幣交換」に近い時期にたくさん発行されました。

Q:旅券を作るのにいくらかかりましたか?
カン:人民元で二〇〇〇元(旧紙幣一〇〇万ウォン)ほどかかりました。

Q:それは保衛部で手続きするんですか?
カン:はい外事課で。最初から最後まで一一個のハンコが必要です。人民班班長からはじまり、洞事務所長、担当保衛員、担当保安員、道領事指導員、領事部長......、平壌(ピョンヤン)までの承認が必要なんです。

その過程で全てにお金(賄賂)を少しずつ渡さないとやってくれません。皆、お金の味をしめましたからね。渡せばやってくれるし、渡さなければやってくれません。

私も中国行きに大きな希望を抱いて、借金までして苦労して旅券を作ったのですが、「貨幣交換」のせいで、考えていた商売がパーになり......。それでももったいないから中国に行ってみようと思って、今回出て来たわけです。旅券が出たけれど使わずに朝鮮に留まったままの人も多いですよ。
(つづく)

注1 北朝鮮のデノミ----北朝鮮政府は五九年、七九年、九二年にも「貨幣交換」を行っている。九二年には新旧貨幣を一対一で等価交換したが、やはり交換上限と交換期間を設けたため大きな混乱を招くとともに、政府の経済政策に対する信頼が大きく揺らぐことになった。華僑らの貯め込んだ現金がターゲットだったと言われている。
注2 中国への親族訪問――親族訪問とっていっても、簡単に許可されるわけではない。まず、本当に中国に親戚がいるかどうかの精密な調査があり、そして素行や経歴に政治的に問題がないかチェックされる。旅券を作るためには保衛部(情報機関)への賄賂を含め、庶民の一〇ヶ月分の収入に当たる約三〇〇ドルが必要だ。出国できるのはいわば体制への忠誠度の高い余裕のある層だといえる。
中国訪問前には思想教育を必ず受ける。「韓国人や外国人やキリスト教会関係者と接触しないこと」、「北朝鮮内部の事情を絶対にしゃべらないこと」、「外出するときは金日成バッジを常につけること」、「中国には強盗や韓国の工作員や詐欺師などがうようよいるので、外出はできるだけ避け、やむ得ない場合は親戚と一緒に外出すること」などの講習を受ける。「中国にもわが国の人間が大勢いるので、中国での一挙手一投足まで報告されるということを忘れないように」─こんな脅しめいた警告で締めくくられるという。その成果なのだろう、親族訪問で中国に来る人たちは、かつては会ってもなかなか本音を語ってくれなかった。

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