インタビュー 三人の女性が吐露する金正日体制への本音(5)
取材:石丸次郎/整理:リ・ジンス
■インタビュー 2 ウさん 下
貧しい人たちにより大きな打撃
Q:「貨幣交換」で最も打撃を受けたのはどんな人でしょうか?
ウ:それはもちろん庶民たちです。
Q:でも旧紙幣で一〇万ウォンを持っていなかった人には関係ないじゃないですか?
ウ:それは違います。直接的には関係が無くても、経済というのは、結局大きな商売があればこそ、小さな商売も上手くいくわけです。その小さな商売の下で仕事をする人たちもいるのです。
Q:タルリギ(注1)をやったり。
ウ:そうです。流通というのは、全ては交換の中で行われるわけです。例えばお金のない人というのは自尊心を捨てて、他の人の家に行って何でも仕事をしなければならないじゃないですか。
農作業でも、荷物運びでも、炭を作ることでもなんでもやらないと。いわば「サービス」ですよ、そうやって何とか生計を維持している人が朝鮮には多いわけです。
(今回の措置で)金持ちたちもしんどくなってしまったので、その下で仕事にありついている人たちはもっと大変なんですよ。それでも裕福な連中はなんとかなるでしょうが、結局最も打撃を受けるのは一番下にいる人たちなわけです。最終的にはそうなります。金持ちなんてどうにかやっていけるはずです。
Q:それでも事前に「貨幣交換」の情報を知らなかった金持ちは打撃を受けたのでは?
ウ:もちろん、そんな人たちは少なくない打撃を受けたでしょう。
でも、そんな連中は......。朝鮮というのは韓国などとは違うということが、あなたには理解しづらいかもしれません。韓国では皆、自分の能力で財産を築いていくでしょう? ですが朝鮮ではそうではありません。
人の物を奪って自分の財産にして、そうやって金持ちになっていって、威張っている人が多いんです。だから、それは汚いお金なんですよ。タダ飯を喰らいながら金持ち然とした奴らが多いんです。労働者を工場でタダ働きさせておいて、生産された品物を売って自分たちだけ儲けているような連中です。
Q:搾取ですね。
ウ:そういう汚い金持ちが多いんですよ。だからそんな連中が没落するなんて、正直どうでもいいことです。しかし一方で、特権も何もないのに懸命に商売をしながら、少しずつ自分のお金を作っていった人もいるわけですよ。そういう人たちが(限度額しか)お金を交換して貰えないのはかわいそうですね。そういう人たちのことを認めてあげるべきなんじゃないですか、国家というのは。
「反動」でない人はいない
ウ:朝鮮では商売をうるさく統制しています。去年私が開城(ケソン)に商売に行ったんですが、四〇歳以下の人は商売が許されませんでした。四〇歳以下の者には家庭が無いとでも言うのですか?
「家庭があるから商売をしなければ」と言うと「それなら職場に出勤しろ」と言われるんです。朝鮮のどこに、まともに稼動している企業所がありますか? 女性を雇う企業所がありますか? それも家庭のある女性を。
「それなら一番厳しい、道路建設や道路補修、発電所建設のようなところに行け」と言うのですが、そういう所は全部、遠くの地方にありますから、家庭のある身では難しいです。そう言うと今度は「今に国家がきちんと配給をくれる時が来るから、その時に備えて、今は少しばかり苦労しても(給料や配給が出なくても)、職場を確保しておけ」と。貧しい人は、ただ今が大変なのに!
それでも、生計を維持しなければならないから、取締りの目を気にしながらジャンマダンで商売をするんですよ。けれど、国家はそれをするなという。一体どうやって生きていけというのでしょうか。(取締りに遭うと)面と向かって「死んでしまえ! 生きていけないなら死んでしまえ!」と言われるんですよ。
次のページへ ...