インタビュー 三人の女性が吐露する金正日体制への本音(6)
取材:石丸次郎/整理:リ・ジンス
■インタビュー 3 ケさん(プロフィールはこちらのリンク先を参照)
誰が最も被害を受けたか?
Q:「貨幣交換」当時、周囲の状況はどうでしたか? ケさんの周囲でそこそこの暮らしをしている人、大きく商売をしながら現金を持っている人たちの間では騒ぎが広がっていましたか?
ケ:私たちの住んでいる郊外地域は、貨幣交換をしたからといって、大損をして騒ぐような裕福な場所ではありません。沢山のお金を失って泣き叫んで卒倒したりする人は、もっと市の中心に住んでいる人たちでしょう。
Q:今回の貨幣交換で最も被害を受けた人は、どんな人たちだと思いますか?
ケ:品物を仕入れて、あっちからこっちへと卸している人たちが一番大変でしたね。代金を回収できなくなりましたから。そんな人たちの中には心臓麻痺で倒れた人もいるし、ショックの余り寝込んでしまった人もいます。
Q:人から金を借りて商売をしていた人たちはどうなりましたか? 借りた金だって交換期間が過ぎれば無効になってしまうわけですよね。国で何らかの措置はありましたか?
ケ:どうしようもないですよ。借りたお金が紙くずになってしまいましたが、国は何にもしてくれませんよ。貸した人の方も無理に返せとも言えない。
Q:でも、それが原因で諍いが起きることもあるでしょう。
ケ:諍いが起きたからといって、国に抗議することもできませんし。
Q:貸した人が無理に返せと言う場合は?
ケ:でも現実を見たらどうやって返せと言うのですか? (新ウォンへの交換には制限があり)今すぐにはどうやっても返ってきませんよ。時間が経ってまたお金を稼げるようになったら、少しずつ返してもらおうと考えるのが関の山です。これはもう時間が解決する問題だというしかないでしょう。
Q:こんなでたらめの「貨幣交換」について、人々は抗議したりしないのですか?
ケ:ひどい措置だからと言って、意見をどこかに提議するなんてできませんよ、絶対に。
Q:誰も上訴(政府機関への訴え)しないんですか? 法的には上訴できますよね?
ケ:そうですけど......、そうしようと思う人は千人にただの一人もいませんよ。朝鮮では国ではそうした行為(政策に対する抗議)を認めないからです。「貨幣交換」も一つの国の法ですから、それを当然と考えるべきだという社会なんです。ですから、それについてストライキをしたり、上訴したりしようとする人は一人もいませんでした。
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