つまり、国の食糧配給システムは機能しておらず、国民の七〇%ほどは食糧配給ほぼゼロ、というのが筆者の推定ある。
では、どうやって食べているのかというと、ほとんどの人が、商行為をするかあるいは非合法に自分の労働力を売って(ヤミ労働)現金収入を得て、市場で食糧を買って食べている。
最下層の人々は、その日食べる食糧をその日の商売や日雇いのヤミ労働で稼いだ金で賄っている。流通の麻痺、商行為への統制、販売不振、ヤミの労働ができなくなるということは、たちまち飢えに直面することを意味するのだ。
デノミによる混乱で、多くの人が現金を得る術を失ってしまった。配給もない中、食糧にアクセスする方途が絶たれた人々は、いったいどのようにして生き延びているのだろうか。
この度のデノミによって引き起こされた混乱は、いつどのようにして止まるのか想像がつかない。金正日政権が市場活動を大幅に許容するなど、大胆に政策を改めることが不可欠だからだ。このままだと、いずれ民衆の暮らしは忍耐の限界を超えてしまうだろう。残念ながら深刻な人道危機に発展する可能性がある。それは、紛れもなく人災によるものである。
(おわり)
注1 羅先(ラソン)市――豆満江の最下流に位置し、中国、ロシアと国境を接する。金日成はこの地区を加工貿易基地、日本・韓国と中国東北地区を結ぶ物流基地として開発しようと、一九九一年に「羅津・先鋒(ラジン・ソンボン)自由経済貿易地帯」と名づけ経済特区に指定した。周辺地区と鉄条網で隔離され、外国人の入境手続きも簡素化したため、中国の深蝨ウ市のような開放都市になるかと期待された。九〇年代半ばから積極的に外資誘致に動いたが、核問題など政治リスクの高さから日本をはじめ欧米諸国から投資に動く企業は現れなかった。中国や香港などの中規模以下の企業が進出しているぐらいで特区開発としては失敗。国際社会からはいつしか忘れられた存在になっていった。しかし、中国との物流では新義州(シニジュ)市に次ぐ地位を占めている。開発責任者の金正宇(キム・ジョンウ)が九九年から動静不明になり粛清されたと見られている。二〇〇一年に羅先市と改められた。
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