■解散、追放...北朝鮮サッカーは低迷期に
北朝鮮で「総括」といえば、自己批判と思想闘争の場を指す。この時も「なぜ敗戦したのか」をめぐって激しい総括が行われたという。その過程で明らかになったのが前述した「夜の出来事」だった。その後、代表チームは帰国の途につくのだが、空港でもう一幕があった。北朝鮮選手たちのカバンから、一夜を共にした女性のあられもない姿が写った写真が出てきたというのだ。
これは西側の記者の好餌となりスキャンダルに発展する。「共産主義の闘士も女性には勝てなかった」と報道されたと文さんは語る。
この報告を受けた金日成首相(当時)は怒った。「だらしがない」として選手たちを炭鉱送りにしたというのだ。文さんによると、家族まるごと炭鉱に送られてきた選手たちは、6か月ほど労働に従事したあと去っていったという。
この一連の騒動により、当時Wカップベスト8という輝かしい戦績を残し「赤い稲妻」と呼ばれた北朝鮮代表チームには解散命令が下った。炭鉱送りを免れた選手たちも「知っていながら黙っていた」罪を問われ、その後満足にプレーすることは叶わなかったという。
だが皮肉にも、この後北朝鮮サッカーは長い低迷期に入ることになる。代表選手たちが現役を退くことで国際舞台での経験が生かされず、北朝鮮サッカーのレベルは下降線をたどる一方だった。金日成はこのことを後悔していたという噂を聞いたことがあると、文さんは言う。
あれから44年。北朝鮮ではこの「事件」を公に認めていないため、北朝鮮の選手たちを虜にした「女性」の正体については、今も不明のままだ。相手国であるポルトガルの作戦だったのか、はたまた北朝鮮の選手が女性を自ら招いたのか。(李鎮洙)