生かされぬ「順川ビナロン」の失敗
この莫大な浪費と手痛い経験を、後継者たる金正日は教訓として活かしているのかといえば、現在に至っても同じ轍を踏むことを繰り返していると言わなければならないようだ。
〇九年一二月一九日付の朝鮮中央通信は、金正日総書記が北朝鮮屈指の製鉄所である金策(キムチェク)市の城津(ソンジン)製鉄連合企業所を現地指導した記事を配信した。
「金総書記は鋼鉄職場、チュチェ鉄職場、精錬職場などを長時間にわたって視察し、良質のチュチェ鉄が川の水のように流れ出るのを見ながら、チュチェ鉄による鋼鉄生産方法を完全に成功させ、生産量を高めていることに満足を表した」
「城津の労働階級が自分の力と技術でチュチェ鉄製鋼法を完成させたのは冶金工業発展で特記すべき歴史的な快挙であり、第三次核実験よりも偉大な勝利であると述べ、チュチェ鉄の主要生産工程である酸素溶融炉と精錬炉に金日成勲章を授与した」
朝鮮中央通信によると「チュチェ鉄とは、国内の原料を使い独自の製法で生産した鉄、またはその製造法のこと。今回自らの技術によってチュチェ鉄による製鋼法を完成したことは、朝鮮の冶金工業の発展に決定的な意義を持つ」のだという。
つまりチュチェ鉄とは、輸入品の重油やコークスを使わずに、北朝鮮で豊富に産出される無煙炭と褐炭を使って鉄鉱石を加工してできる鉄だというわけだ。二〇余年前に挫折した「チュチェ繊維」と瓜二つではないか。
最後に、二〇一〇年の新年共同社説(注1)の中の一文を紹介してこの報告を締めくくりたい。
「人民生活を高めることは経済実務的事業ではなく、父なる首領様の遺訓を貫徹して人民の千万の理想を花咲かせるわが党の偉業の正当性を誇示する重要な政治的事業である」
人民生活の向上を、経済でなく政治の事業だというのだ。朝鮮語で、どうにも手の施しようがない状態のことを「ヤギオプタ=薬がない」という。「経済よりも政治、技術よりも思想」という悪弊を治す薬は、今のところ金正日政権にはなさそうである。
(おわり)
注1 新年共同社説----北朝鮮は毎年元旦に、前年を総括しその年の施政方針を「新年三紙共同社説」(『労働新聞』『朝鮮人民軍』『青年前衛』 )で示すことが慣例になっている。金日成の生前は、元旦に肉声の「新年の辞」をメディアで流していた。
◆スクープ! 廃墟となった 巨大コンビナートを撮影 1
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