二〇〇九年は金キムジョンウンという名前を耳にする機会がやたらと多かった。金正日総書記の三男で後継者候補とされるこの青年の人物像や動静に、世界が注目したからに他ならない。
そんな中、リムジンガン編集部は、その金ジョンウンを直接見たという人物と出会った。江原道の農業関連機関の幹部をする四〇代男性のモさん。二〇〇九年の四月、元山(ウォンサン)農業大学を訪れた金正日に、なんと金ジョンウンが随行して来た、とモさんは言うのだ。
モさんは中堅幹部として金総書記の迎接に動員されていて、偶然金ジョンウンの姿を目撃することになったのだった。編集部は、その年の夏に公務で中国に出てきていたモさんから話を聞いた。
Q:最近、後継者が決まったという話が出ているそうじゃないですか?
モ:まあ、少しずつだけど噂はあります。でも正式に後継者だって話は聞いたことがありませんよ、まだ。
Q:金ジョンウンでしたっけ?
モ:二九歳と言われてます。
Q:結構お詳しいみたいですね
モ:詳しいも何も、直接この目で見ましたからね。
Q:本当ですか? 今、世界中が、彼がどんな姿をしているのか知りたがっているんですよ。どんな感じの人でしたか?
モ:四月二四日だったかな(北朝鮮メディアは二六日に訪問を報じた)、将軍様の農業大学の視察に同行して元山に来たんです。私はその場に動員されていたんですよ。背は将軍様よりも少し大きいかな。体は少し細めで......、階級は大将だと聞きました。
Q:後継者だと紹介されていたのですか?
モ:そうではなくて「子弟の方々がお見えになりました。人民軍大将同志がいらっしゃいました」と、紹介していました。
Q:体格はどれくらいでしたか? 私(一七〇センチ、六五キロ)くらい?
モ:そうですね、もう少し細かったかな。
Q:年齢はなんと言っていましたか?
モ:二九歳だそうですけど。
Q:実際は二六歳だという説もありますが(一九八三年生まれ説がある)。
モ:それは知らないです。二九だと聞きました。
Q:でもどんな用で農業大学へ?
モ:よくわかりませんが、農業分野の視察でしょうね。元山農業大学は朝鮮で初めての農業大学なので、以前は首領様(金日成主席を指す)もよくいらしたもんです。金正日将軍様は二月にも来られましたが、その時には家族は連れてきてなかったらしいです。だから今回は子弟同伴なので、農業大学では迎えるための準備が大変だったと言っていましたね。
朝鮮中央通信は二〇〇九年四月二六日付で「偉大なる領導者金正日同志は、元山農業大学に新たに建設された土壌式無公害温室を現地指導された」という記事を配信した。そこには、金ジョンウンを示唆する言葉はなかった。
Q:金正日の他には誰が来ていましたか?
モ:将軍様と三人の子弟が来ていると言っていました。
Q:三人ですか? 誰と誰でしたか? 名前は?
モ:(少し質問者を警戒し始める)全員の名前までは分かりませんねえ。とにかく三人の子どもが来ただけと言っていましたけれど......。
Q:その行事は「一号行事」(注1)ですよね?
モ:そうです。そんなことまでよく知ってますね(笑)。一号行事だから誰でも近くにいけるわけではないんです。俺だって後ろの方でやっと見えた程度ですから。それでもさすが一号行事、写真を撮る人たちなんかも中央から来てたみたいだし、警備もすごかったですよ。
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