大村一朗のテヘランつぶやき日記 ショマールへの小旅行・1 2010/07/27
3泊4日でカスピ海沿岸にある職場の保養施設へ出かけた。そこは広い敷地内にマンション型の宿泊棟3棟、レストラン、海水浴場、小さな遊園地、競技場を備えた総合施設で、数日のんびりと過ごすことが出来る。
テヘランからの行程は6時間。乾燥した内陸部からバスでアルボルズ山脈を越えると、周囲の景色は亜熱帯特有の鬱蒼とした緑と一面の稲田に変わり、カスピ海の湿った空気に包まれる。多くのイラン人、特にテヘラン市民には、緑豊かなこの地方は「ショマール(北)」という呼び名で親しまれ、海沿いには多くの貸し別荘が並ぶ。
保養施設のレセプションでチェックインをしていると、手続きをしてくれた係りの男性が「おや?」という顔をして、突然自分の携帯を取り出し、携帯画面を私に見せた。そこに写っていたのは、2年前に撮った、まだ一歳になったばかりの僕の息子の写真だった。こういうとき、僕は心からイランにいることが嬉しくなる。
リゾート地の保養施設といっても、国営企業の敷地内であることに変わりはなく、乱れた服装は許されない。女性の服装やスカーフの乱れを取り締まって回る職員がいたり、男女交代制の海水浴場では、各時間帯、異性が浜辺に近づくことすら許されない。
しかし、子供達にとっては楽園であり、3歳の我が家の息子も、貸し自転車やミニ遊園地、スワンボート、そして敷地を一周するトロッコバスに夢中だ。
丸一日、施設内で思い切り遊んだ翌日、我が家はタクシーをチャーターし、1時間ほど走った山奥にある城砦見物に出かけた。ルードハーン城砦というその城砦は、一度写真で見て以来、僕にしては珍しいほど、訪ねるのを夢見ていた場所だった。
城砦は山の頂にある。ふもとには多くの土産物屋や、寝台を並べた気持ちの良いチャイハネが並んでいる。そこから城砦までは深い森の中を1千段以上の階段を登ってゆかねばならない。健脚でも片道1時間はかかるという。
平日にもかかわらず、夏休みということもあり、結構な家族連れの観光客とすれ違う。すれ違いざま、「ハステナボシ(お疲れ様)」と声を掛け合うのは、日本の山と変わりがない。子供を抱っこしたり、おぶったり、歩かせたりしながら休み休み登り続けること1時間半、頭上にレンガ造りの赤茶けた城門が見えてきた。やっと着いたのだ。
城門をくぐると視界が開け、なだらかな山の頂に広がる城内に出た。それは南米ペルーのマチュピチュを彷彿とさせ、息子は宮崎駿の映画「天空の城ラピュタ」の名を口にした。城の起源は紀元前にさかのぼり、現在の形になったのは10世紀のセルジュク朝期だという。城砦から稜線上に伸びる城壁は1キロ以上に及ぶという。
イランには紀元前にまでさかのぼる朽ちかけた城砦が砂漠地帯のオアシスに無数にあり、もともとそういうものが好きな僕はこれまで多くの城に登ってきたが、鬱蒼と茂る森の高みに築かれたこのルードハーン城砦の雰囲気はどこよりも素晴らしかった。ひとしきり城内探検を楽しんだ後、山を下った。(つづく)