沙里院市の大通りで、大学生糾察隊に自転車に乗っていることを咎められた若い女性。(2008年10月沙里院市 シム・ウィチョン撮影)

 

取締り2 女は自転車に乗るな
取材 シム・ウィチョン
黄海北道沙里院(サリウォン)市の大通りの歩道に、男女の大学生糾察隊が取締りのために出動している。男子学生はワイシャツにネクタイ、女子学生は紺と白の清楚なチマチョゴリを着ている。ズボンをはいて自転車に乗っていた若い女性の二人連れが男子学生に「ちょっと来い」と呼び止められた。

「自転車に乗れなけりゃ、商売も用事もできやしない」
検挙された女性は、あまりにも腹立たしいのだろう、大きな声で不満を言いたてている。道路わきには、糾察隊に捕まった一〇数人の女性が自転車を押して一箇所に集められている。二〇〇八年一〇月にシム・ウィチョンが撮影したビデオの一こまである。

自転車取締り1
検挙した女性を取調べの場所に連れて行こうとしている。後ろのチマチョゴリ姿は女子大生の糾察隊員だ。

 

よく解せないのは、なぜ女性が自転車に乗ってはだめなのか、である。何人かの北朝鮮人に取材したところ、その理由はおおよそ次のようなものであった。一九九九年のある時、平壌でオ・ヘソンという女性作家(『労働新聞』の記者という説もあり)が、自転車に乗っていて軍用トラックにはねられて死ぬという事故があった。彼女は軍の最高幹部の呉克烈(オ・グンリョル)(現国防委員会副委員長)の娘であった。訃報を聞いて驚いた金正日総書記は次のように言ったという。

自転車取締り1 学生の糾察隊員は特権意識が強く、社会人や年長者に対しても態度が傲慢で、たちが悪いという。
(上下とも、2008年10月沙里院市 シム・ウィチョン撮影)

「私の乗る車が自転車に乗る女性に追突しそうになったことがある。そもそも女性が股を開いて自転車に乗るのは見苦しく朝鮮の美風を損なう。女性が自転車に乗ることを禁止せよ。」
金総書記の《お言葉》は方針となってすぐに全国に伝えられ、女性は自転車に乗ることができなくなった。ちなみにこの「女性の自転車禁止令」は、この年の一二月の『労働新聞』で報じられている。
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