解説 北朝鮮式風紀取締りの仕組みと目的 上 石丸次郎
取締りは誰が、どのようにするのか
街中で風俗・風紀の取締りをするのは主に糾察隊である。大学生糾察隊、中学生糾察隊、女性同盟糾察隊、青年同盟糾察隊、職業総同盟糾察隊といった具合に、学校や社会団体(政党、軍、行政組織でない一般団体)で組織される。女性同盟は職業を持たない「専業主婦」の女性の組織だが、「糾察隊に選ばれるのは夫や身内に幹部がいる場合が多く、政権に忠実とみなされた人たち」なのだという(〇六年に脱北した男性らの証言)。糾察隊に選抜されて街角に立つのは大体一ヶ月間である。期間限定なのは、同じ人が同じ場所で長くやると、賄賂をもらって大目に見たり、情実が生じてしまい、取締りの効果が薄くなるからだという。
大学生や中学生の糾察隊は、学校ごとに組織されて街頭に立ち、主に学生を取り締まる。制服を崩して着ていないか、華美なアクセサリーをしていないかなどの他、髪型や靴のヒールの高さにも目を光らせる。また授業をサボって私服で街中をうろついている学生の取締りも任務である。
青年同盟と職業総同盟の糾察隊は、保安署(警察署)の指導によって組織されることが普通である。朝に保安署に集められて課題が与えられ配置と分担が決められる。例えば「今日の重点対象は若い女性だ」とか「肖像輝章(金日成バッジ)をつけていない者を集中的に取り締まる」という具合にだ。
四~六月の北朝鮮は、全国で農村支援活動が繰り広げられ、学校や職場、地域から原則的にすべての人が、田植えや種まき、草取りの作業に動員される。この時期、糾察隊は、農村動員をサボって街中をうろついている者も捕まえる。また、中国との国境に近い場所では、脱北しようとする者の監視と取締りをすることも糾察隊の任務になっている。
青年同盟と職業総同盟の糾察隊に選抜されるのは除隊軍人が多いのだという。約一〇年の服務を終えて社会に戻ってきた三〇才前後の男性たちは、社会性が低く技能や労働経験もなく、すぐには適当な働き場所が見つからない。一方で命令に服従して行動することに慣れきっているし、取締りの際の威圧も軍隊仕込みでお手のものであるため、糾察隊員にはおあつらえ向きなのだ。
ほとんどの企業所においては、給料も食糧配給も停止しているにもかかわらず、糾察隊に選抜されている間は、給料も配給も必ず支給されるのだという。このような若干の特別待遇があるうえ、権力から権限を付与されているため、自分が偉くなったように錯覚して尊大に振舞う者が多いという。
「糾察隊に選抜されたとたん、出世したとか大きな仕事を任されたような気になって、威張り散らしたり、格好をつける者が少なくなく、糾察隊員は忌み嫌われている」と多くの北朝鮮人が言う。
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