南北コリアが初めて同時に出場したこともあって、南アフリカ共和国で行われた今回のワールドカップに対する韓国市民の関心は高かった。
去る6月21日ソウル、私はポルトガルと対戦する北朝鮮チームを応援する集会を覗きに行った。約500人の参加者が試合を映し出すスクリーンを見ながら「ワーン、コリア!」「ウーリ、ハナ!(我々は一つ)」とエールを送る。

久しぶりに政治のしがらみを忘れて「南北統一チームができたら、どれだけ強いだろうか」を想像するのは悪い気分ではなかった。
だがそんな気分も、中朝国境地帯に取材に行くとすぐに吹っ飛んだ。北朝鮮から越境してきた人たち会うと、やっぱりサッカーどころではないのだ。
「あまりに辛い暮らしが続くので、最近は皆、『どうせ死ぬなら、ツルハシでも持って、南北を分断する壁を壊しに行きたいね』と話している。祖国の統一無しに朝鮮の発展は有り得ないから」

鴨緑江を挟み北朝鮮北部、両江道の道都恵山(ヘサン)市を対岸に臨む。手前は中国吉林省長白県だ。2010年7月撮影。©アジアプレス

 

こう言ったのは、北朝鮮北部の街から数十キロも険しい山道を歩いて中国にたどり着いた30代の農民女性。
昨年末に行われたデノミ(通貨単位の切り下げ)に端を発する経済混乱の影響で、今年になって周囲でたくさんの人が飢えで死亡したという。
本人も、じゃがいもからデンプンを作る工場から出る「カリ」と呼ばれる滓を粥にしてしのいできた。

4歳になる息子がいるそうだが、「せめて息子の代には自分たちのような苦労はさせたくないです」と言って悔しそうな表情をしたのが忘れられない。
しばらく中国で畑仕事でも手伝ってお金をもらい、また家族のいる北朝鮮に戻るつもりだと、計画を語ってくれたが、細くて小さな彼女に、はたして警備の厳しい国境を再び越えることができるのだろうか...。

彼女にワールドカップを見たか聞いてみた。北朝鮮チームの試合の時は、中国に向かう道中だったため見ていないと彼女は首を振った。情けない質問をした自分が恥ずかしかった。

取材を終え重い気持ちで宿舎に戻りテレビをつけると、ワールドカップが毎晩夜通し放映されている。試合をつまみに一杯飲むと頭が痛くなってきた。北朝鮮と中国、そして韓国。この格差、落差はいったいなんなのだろう?

別の日、咸鏡北道の鉱山都市から3月に来た40代の女性に会った。「あなたの願いは?」と問うと、
「同じ民族同士、統一して、自由に行き来できるようになったらいいですね...。そうなれば私たちもましなくらしができるでしょう?」
そう言って彼女は涙ぐんだ。私も目頭が熱くなるがインタビュアーが泣くわけにはいかない。
祖国統一...。
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