イラク陸軍の高機動車ハンヴィー。これは装甲車ではなく、いわゆるジープのような扱いだが、以前に比べ防弾防爆装甲が強化された。機銃の上に黒い「屋根」があるのは日よけではなく、銃座の兵士が武装勢力の狙撃で狙われないようにするため。(2010年4月/撮影:玉本英子)

パトロールに向かうため、軍用装甲車に乗り込む。
むかし、装甲車というと工事現場の建設機械のような重厚な車体のイメージをもっていた。しかし、実際には走り出すと、かなり速い。
ただ、いつ地雷を踏むか、銃撃されるか。この車自体が標的なのだ。

当初、イラク軍の軍用車両は米軍のお下がりの高機動車ハンヴィー(ハマー)が多かったが、最近はイギリス製やポーランド製など、イラク国防省が購入した各国の最新軍用車両が配備されるようになっている。
「いまは外国の武器ばかりだけど、それを扱う自分たちの心はイラク人だからね」
私の横に座っていたサジード・マフムード少佐はニッコリと笑う。
なかなかシャレたことが言えるものだな、と、ちょっと感心した。

ズイーンという音が響く。エンジンの回転数があがり、加速する。イラクでは軍の車両が最優先だ。警察の検問も素通りできる。
何十台と検問に並ぶ一般車両を横目に高速で走り抜ける。高速なのは、いつ横の車が自爆するかわからないからだ。

ハンヴィーの運転席。左にのびる足は、屋根の銃座に立つ兵士。銃座だからイスがあるというわけではなく、ベルトに腰を載せるだけでずっと立ったまま機銃を構える。(2010年5月/撮影:玉本英子)

装甲車の窓は強固な防弾ガラスで開かないため、車内は一応エアコンがきいているのだが、緊張する私の額からはときおり大粒の汗がこぼれおちる。
車両が武装勢力の待ち伏せ攻撃があいついでいる危険な地区に入る。

兵士たちは銃の安全装置を解除して、銃を握り締めた。
皆、鋭く、厳しい眼つきにかわっていた。
(つづく)
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