甑山教化所での過酷な体験を赤裸々に証言してくれたAさん。(2008年9月中国延辺朝鮮族自治州にて)
甑山教化所での過酷な体験を赤裸々に証言してくれたAさん。(2008年9月中国延辺朝鮮族自治州にて)

 

インタビュー:強制送還された脱北女性の証言7
聞き手 石丸次郎

◆〈インタビュー 1〉Aさん (7)
取材:二〇〇八年九月

獄中死・脱走
Q:栄養失調になる人が多いでしょう?
A:とにかく、監獄に入る時に既に病気していると大変です。健康な人でもあそこでは寝て目が覚めたら、「おっ、まだ生きている」とほっとするぐらいですから。教化所ではまともに食べられないから、お腹を空かせた人間は「塩を食べても甘く感じる」と言われてるんですよ。でも塩をたくさん取ると浮腫みが出ます。その浮腫みが出たり消えたりしながら、だんだん弱っていって、しまいには死んでいきます。

栄養失調になってしまうと、家に戻らない限り栄養補給ができず、本来の状態に戻ることがありません。日が経つにつれて弱っていくだけです。さっき言ったように、田植えが終わった頃に弱った人たちが大勢死ぬんです。緊張が解けたせいだと思います。以前は病気になると治療のために送り出したそうですが(一時的な帰宅の意)、今は死にかけにでもならない限り外で治療は受けられません。そうなっても家庭事情が苦しくて治療できない人はそのまま死んでいきます。

Q:死んだら火葬するんですか?
A:火葬はせずに、そのまま棺もなく毛布とか布で巻いて埋めてしまいます。死ねばコッドンサン(花の山、山にある共同墓地の意)に行くことになります。監獄の中で死ねば亡骸もひきとることができません。棺もないのでそのまま埋めてしまいます。どうせ死ぬんなら外(社会)に出て行ってから死なないとね。

Q:死体をなぜ家族に渡さないんですか?
A:罪を犯したものが監獄の中で死んだら、反逆者のまま死んだものと扱われるからです。「民族反逆」という罪があるし、公民ではない(公民権が剥奪されている)ので渡さないのだと思う。

Q:家族に死亡についての説明はありますか?
A:ただ、病気で死んだと伝えればおしまいです。私たちのような囚人は人間扱いされないから。家族たちは胸が痛いでしょう。

Q:あなたがいた班では、どれぐらいの割合で人が死にましたか?
A:私が入った日に死んだ人が、うちの班だけでも二人いました。仕事をしたくないから死んだなんて、保安員は言います。病気があっても治療もできせん。保安員の中には軽い病気の場合は薬を買ってくれる人もいましたが、薬の値段が高いから治療できず死ぬ人もいます。私がいる間にうちの班だけで一〇人ぐらい死ました。

Q:脱走した人はいましたか?
A:逃げだして捕えられた人たちがいましたね。収監されている人は甑山の地理をよく知らないから、逃げても二日で全部捕まえられますよ。中国のように広くもない狭い朝鮮だから逃げられない。労働鍛錬刑を受けた人が逃げて捕えられれば、一般の教化所へ移送されます。また一般教化所の人が逃げれば一〇年が追加され、最近は銃殺までするといいます。私は中で銃殺は見ませんでしたけど。
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