茂山鉱山の場合もこの「採掘権」をめぐる軋轢があったとされる。中国側は採掘権を握ることで、鉱山全体の生産をコントロールし、開発に拍車をかけたい反面、北朝鮮側は国の鉄鉱事情を左右する大事な鉱山を、いくら同盟国だとはいえ、外国である中国の手に渡したくはなかったのだろう。

そのため、契約の履行はいったんストップされ、2006年に再開されたという。(※3)その後、この契約が現在までスムーズに履行されているかどうか、確認はできていない(韓国の連合ニュースなどは2008年にこの契約が破棄されたとするが詳細は不明)。だが中国は2006年10月に北朝鮮が行った核実験による、国際的な圧力の強まりなどの政治的なリスクにも関わらず、継続して茂山から鉄鉱粉を輸入し続けた。

2008年下半期に起きたいわゆる「リーマン・ショック」も中国と茂山鉱山の間に重大な影響をもたらした。「延辺天池工業貿易有限公司」の趙長寿社長によれば、国際的な鉄鉱石価格の大暴落の影響で、1ヶ月半の間に6500万元(約10億円、当時)の損害を出したという(※4)。また、これを受け2008年の11月から2009年の4月まで、茂山鉱山との取引を中国側は停止したことがアジアプレスの取材で明らかになっている。

茂山鉱山の事情に詳しい、吉林省長春市のとある鉄鋼会社で勤務経験のある李賢さん(仮名)によると、「延辺天池工業貿易有限公司」は茂山鉱山との取引を行う中で、これまでに3億元(約38億円)の損害を出したという。また、他にも茂山鉱山の鉄鉱石を輸入しようとした企業の多くは損失を出しているとのことだ。

その主な理由は「北朝鮮側のわがまま」。北朝鮮側の契約を担当していた部署が突如変更され、契約が一方的に破棄されたり、新しい契約を結ぼうとすると、機械設備の追加設置を要求したりするなど、茂山鉱山側の無責任な行動に振り回されることが多かったという。李さんの企業も1200万元(約1億5000万円)の投資額が回収できないままになっているとのことだ。

これを案じた中国側は「延辺天池工業貿易有限公司」を、延辺州から吉林省が管理する、「省級」の企業に格上げした。このため茂山鉱山と関連する取引は国家間の貿易問題となり、北朝鮮側も以前のような身勝手な行動を取れなくなったという。
このように、北朝鮮との取引が一筋縄ではいかないことを誰よりもよく知っている中国が、さらに投資を重ねて鉄道を敷設している。その理由は何だろうか?(つづく)
(※1)『北韓・中国間の鉱物性生産品貿易と北韓の先軍経済建設論』(裵鐘烈、韓国輸出入銀行「北韓経済2009年夏号」)を参照
(※2)同上
(※3)同上
(※4)吉林新聞2009年2月7日記事

<中国が押さえた北朝鮮・茂山(ムサン)の鉄鉱石>記事一覧

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