1.沙里院(サリウォン)市の「闇の卸売り商店街」[6]
2008年10月撮影
取材 シム・ウィチョン 解説 石丸次郎
シム・ウィチョンが撮影して来た沙里院大成(デソン)市場前の光景は、まさに北朝鮮の流通が高度化、分業化していることをよく現わしている。全部で五〇人はいようかという客引きの女性たちが手にしてる商品目録には、「都売」(卸売り)と書かれている。黄海北道の中心地の沙里院に、おそらく郊外から、自己消費ではなく商売の仕入れのために大勢の人が買いつけに来るということなのだろう。
シム・ウィチョンによると、紙を掲げている女性たちは「商店主」ではなく客引き兼店員である。客を引っ張ってきて商品を売れば歩合がもらえるのだという。「商店主」と彼女たちは、一種の雇用契約関係が生じているといえる。北朝鮮では私的な雇用はご法度であることを考えると、市場の発達が分業とともに新しい労働関係を創り出していることがわかる。
女性たちが手にしている目録の商品は、公設市場では売ってはならない禁制品が多い。電化製品は「収買商店」(買取商店)という国営商店に委託して販売することになっているし、薬品は本来は国営の薬局で取り扱うものだ。これら個人が扱うことが統制されている商品が、この通りでは数十の店が軒を連ねて、半ば非公然、半ば公然と販売されている。流通の発達が、いわば「闇の問屋街」「闇の卸売り商店街」を造り出したというわけである。