大村一朗のテヘランつぶやき日記 あるラマザーン月の一日 2010/08/31
テヘラン北部のタジュリーシュ広場。その日の断食が明ける夜8時過ぎ、いっせいに開く飲食店に人々が群がっている。飲み物やアイスクリーム、そして断食明けの定番である野菜と豆の煮込みスープ・アーシュレシテを買い求めている。
自宅からは遠いが、昔ながらのバザールも、ちょっと高級なデパートもあるこの広場に、我が家はよく出かける。
広場の一角で、青白い光が花火のように夜空に上がっては、ゆっくりと落ちてくるのが目に入った。それは輪ゴムで飛ばす小さなおもちゃで、先端には青色のLEDが付き、ゴムで10メートルほど上空に飛ばすと、ビニールテープの羽を自然に回転させながらゆっくりと落ちてくる。その羽をLEDが照らすので、まるで青く光る小さな円盤が降りてくるように見える。
「一個1000トマン!1000トマン!」
売り子の掛け声に、買い求める通行人が結構いる。日本円で100円ほどだ。3歳の息子が「ほしい!」と言うので、一個買ってやることにした。実は自分もかなり欲しかった。
手にしてみると、それはセロファンの袋に小さな説明書とともに入った、中国製の随分簡単なおもちゃだった。中国では一個30円くらいで売っていそうだ。この売り子の兄ちゃんは一日にこれを100個くらいは売るとして、結構いい商売してるじゃないか、などと考えていたら、「おじさん」と横から声をかけられた。見ると、ハーフェズ占い売りの小さな少年が遠慮がちに立っている。
「おじさん、僕にもそれ・・・、一個買ってもらっていい?」
その一角は、占い売りや靴磨きの子供たちが結構いる場所だった。売り子の兄ちゃんの実演販売を見ていたら、欲しくもなるだろう。
「いいよ」
もう1000トマン払って一つもらうと、少年に渡した。
「ありがとう。占い、要る?」
「いや、いいよ」
そう言うと、その子は表情なく去っていった。
「買ってほしいんじゃなくて、お礼に一枚どうぞってことだよ。あの子にだって義理はあるんだから!」
いきなり相方に叱られた。そうだったのか。いつも占い売りの子供にそう言っているように、つい要らない言ってしまった。
「お~い!やっぱ一枚もらうよ」
呼び止めると、少年の手からよれよれになった一枚の便箋を引き抜いた。少年の表情に変わりはなかった。
僕の空飛ぶ円盤は、なかなかうまく飛ばなかった。2、3メートルしか上がらず、ぼとりと無残に落ちてくる様子を見て、「貸してみなよ」と靴磨きの少年たちが何度か手本を見せてくれる。コツがいるのだ。彼らがやると、びゆーんと10メートルくらい上がって、夜空を青い光の輪がくるくると舞いながら降りてくる。うまいもんだ。そうやって買ったばかりの人に教えながら、彼らはもしっかり遊んでいるのだった。
ハーフェズ占いは、小さな便箋の中にペルシャ詩人ハーフェズの詩の一節が入っていて、その内容から自分の抱える問題や明日を占うというものだ。詩の一片とともに、その意味するところもちゃんと書かれている。僕のもらった占いには、次のように書かれていた。
『あなたには夢を実現させる力があることを、常に心に留めていなさい。なぜなら、神はあなたの中に、それを用いれば自らの気高い目標に手が届く、力、能力、資質を授けているから』
神を信じる気持ちが自分にもあればと、心から思った。