アメリカ軍は8月末をもってイラクから戦闘部隊を撤収させた。「イラクの自由作戦」として始まった対イラク戦争は、今後、「新しい夜明け作戦」と名を変え、駐留部隊5万人規模の米軍兵士が、イラク軍の訓練にあたることになる。
米軍をはじめとした多国籍軍は、この数年にわたって、イラク軍だけなく警察機関も養成し、機構化をはかってきた。
バグダッドではアメリカの占領が終わり、あたかもイラク人の手にイラクが取り戻されたかのように歓喜する人もいる一方、完全撤退しないのなら欺瞞でしかない、と主張する政党もある。
バグダッドで取材するアジアプレスの現地通信員は、米軍戦闘部隊撤収後、市内で聞き取り調査をした。年齢や職業、そしてシーア派やスンニ派など居住区も違えば、意見も異なる。
「ようやくアメリカ兵を見なくてすむ。もっと早くに我々が追い出すべきだった」(学生/シーア派)
「アメリカの都合で始まった戦争。こんどはまたアメリカが勝手にイラクから去っていくだけ。この国に何が残った。悲しみと死体の山だ!米軍が残る限り戦争は終わっていない」(雑貨店店主/スンニ派地区)
「安定にはほど遠い。占領には反対だが、爆弾事件は頻繁に起きている。安全が保障されるまでもう少し駐留すべき」(工員/クルド人)
一部を除いて、治安任務はすでに軍と警察に移管され、イラク人の手による運営がすすめられてきた。一方、その過程で拷問による殺害や令状なしの逮捕や拘留も明らかになっている。こうした事件が表面化されることは少ない。
「イラクがうまくいかないのはすべてアメリカに責任がある。即時撤退すべきだ」と、これまでどの政党もイラクの政治が破綻してきた理由をアメリカのせいにしてきた。だが、これからはイラク人がその責任を負うことになる。
フセイン政権時代に士官だったという退役兵士の老人が、市内で人びとの声を集めて回る通信員を呼びとめて言った。
「湾岸戦争では敵だったが、イラク人はもともとアメリカ人そのものは嫌いじゃなかった。だがアメリカは今の若者の心に強い反米感情を植えつけてしまった...」。
アメリカは米軍戦闘部隊の撤収はしたが、「イラク戦争の終結」を宣言したわけではない。各地では連日のように自爆攻撃や爆弾事件があいついでいる。
「夜明け作戦」の夜明けは、イラク人のためのものとなるのだろうか。アメリカにとっての夜明けでしかないのなら、イラクでの混乱はさらに続くことになるだろう。
(玉本英子、バグダッド=ムハマッド通信員)