同じように、クラウン村で、タロン民族最後の男性として生きるダウェさんにも2つの名前がある。ダウェというのはラワン式のクリスチャンの洗礼名だ。ビルマ国内のタロンに関するほとんど全ての文献には、このダウェという名前が記されている。

今でこそタロンという民族はビルマ国内では名前が知れて有名になっている。
だが、これまでの彼らの歴史を振り返ると、タロン民族は他民族からの迫害─荷物運びのポーターに徴用されたりしていた─を避けるため、人知れず山奥の村にひっそりと集まって住んでいたのだ。そのうちの何人かは、多数派民族との摩擦を避けるために、わざわざラワン名を名乗ったのかもしれない。
ダウェさんのタロン名は、クルーテッェという。タロン語では、(8人兄弟姉妹のうちの)男で4番目で (身体が)小さい、という意味だそうだ。
「辺境」に住む勢力の小さい民族は、どうやら回りの優勢な民族に、うわべだけでも調子を合わせてきたようだ。自分の名前や民族の存在も、大きなものにのまれていく。それが山地に暮らしてきた少数派の民族の辿らざるをえなかった歴史なのだろうか。
つづく
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